TRIO KT-9700

TRIO KT-9700 が到着

2023年2月5日、東京都八王子市の M さんから TRIO KT-9700 の修理依頼品が到着しました。

定価15万円パルスカウント検波FM 専用チューナ です。



程度&動作チェック

  1. 依頼者のコメント

    1. 電源投入後、音が出るまでに2〜9分かかる

      • 1年ほど前に電源投入後の音が出るまでに約5分かかるようになり、最近では9分と長くなりました。

      • 電源投入時はすぐに signal メータと tuning メータが振れますが、deviation メータは音が出るまで振れません。

      • 一旦出音してからは音が途切れたりは一切ありません。 stereo ランプ、MPX ランプも違和感なく点灯しています。

      • 電源を一旦落とし10秒後 (10秒の理由は特になし) に再投入すると2〜3秒後に音が出ます。

      • 1年前に症状が現れた時に電源部のコンデンサ交換を個人でしています。 (明らかな改善は見られず)

    2. signal メータレベルが以前より 12〜15dB ほど低く表示する

      • signal メータレベルは以前は 12dB ほど現在より高かったと記憶しています。

      • 我が家は集合住宅で CATV の同軸から信号を得ています。 (東京 FM は 79.4MHz)

      • 配信設備の交換等で送り出しレベルが変わったのかも知れません。 設備交換の有無は不明です。

    3. 40数年以上前に雑誌の売買欄より中古で購入、以来故障無く使用してきました

      • よく40年も持ってくれたと思いますが、これを機会に調整/修理をお願いします。

  2. 外観

  3. 電源 ON してチェック



カバーを開けてみました

  1. 作りは良い

  2. ブロック図

  3. フロントエンド

  4. IF 部

  5. 検波部

  6. MPX 部



リペア

  1. 電源投入後、音が出るまでに2〜9分掛かる

  2. 音は出ても [deviation] メータはほんの僅かしか振れない

  3. Signal メータレベルが以前より 12〜15dB ほど低く表示する

  4. その他

    1. [SW 基板] の部品交換のついでにフロントパネル内も軽く清掃しました。

      • [SW 基板] の部品交換はフロントパネル分解が必要で大変でかなり時間がかかります。

      • 次にフロントパネルを分解するのはフィラメントランプ交換の時かな? どうせやるなら LED 化をお奨めします。

    2. 天板に取り付けられている [ブロック図銘板] と底板のネジが入れ違いになっていたので、正規に直しました。

      • 修理依頼者が以前にカバーを開けてから組み立てた時に間違ったのだと思います。

    3. 交換前に基板に実装されていた部品の記録

      • 左から、トランジスタ [2SC945]×3個、電解コンデンサ [470uF/16V]×2個 です。





調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

  

  1. 調整ポイント

    基板 種別 調整ポイント 調整内容 備考
    FE L La1
    La3
    La4
    La5
    La7
    La8
    La9
    RF トラッキング [L] [TC] とも調整可能
    TC TCa1
    TCa2
    TCa3
    TCa4
    TCa5
    TCa6
    TCa7
    L L1 OSC トラッキング L1 は密閉金属ケース内で調整不可
    TC TC1
    IFT La12 IF (10.7MHz) wide stereo IF 歪補正
    IF IFT Lb15 wide IF (10.7MHz)
    Lb16 wide/normal IF (10.7MHz)
    Lb17
    Lb18
    wide/normal/narrow IF (10.7MHz)
    Lb19 narrow IF (10.7MHz) narrow stereo IF 歪補正
    Lb20 BEACON IF (10.7MHz) ミューティング用
    Lb21 S.METER IF (10.7MHz) S メータ用
    Lb22
    Lb23
    MULTIPATH IF (38kHz) M メータ用
    VR VRb1 BEACON ミューティング調整 (40dB)
    VRb2 BEACON ミューティング調整 (20dB)
    VRb3 S.METER S メータ調整 (20dB)
    VRb4 S.METER S メータ調整 (80dB)
    VRb5 MULTIPATH IF 信号の AM 成分
    DET VR VRf1 T.METER T メータのセンタ調整
    MPX VR VRc1 OUTPUT LEVEL オーディオ出力レベル調整
    VRc2 VCO (19kHz) VCO フリーラン周波数調整
    VRc3 SEP (R→L) wide
    ステレオセパレーション調整
    VRc4 SEP (L→R)
    VRc5 DEVIATION METER D メータ調整 (1kHz 100% 変調)
    SW VR VRh1 可変出力ボリューム フロントパネル [output level]
    VRh3 T.METER CAL T メータキャリブレーション調整
    N.AMP VR VRq1 N.AMP GAIN ノイズアンプゲイン調整

  2. 電源電圧チェッックポイント (VP)

    VP 標準値 実測値 判定
    [PS 基板] 2pin (+B) +13V +13.3V
    [PS 基板] 4pin (-B) -13V -13.3V

  3. FM 受信部の調整

    手順 SSG出力 KT-9700 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - muting : off
    IF band : narrow
    mode : auto
    - -  
    2 83MHz
    15dB 前後
    mono 1kHz
    83MHz 付近で受信 - オシロスコープで
    オーディオ出力波形を観測し、
    サイン波ピーク上下のノイズ成分が
    同じレベルになるよう指針を合わせる
    同調点調整
    3 83MHz
    90dB
    mono 1kHz
    VRf1 T メータ = センタ
    4 指針を 83MHz に
    合わせる
    TC1 OSC トラッキング調整
    ダイヤルと指針を合わせる
    のが目的
    5 76MHz
    40dB
    mono 1kHz
    76MHz 受信 La1
    La3
    La4
    La5
    La7
    La8
    La9
    S メータ = 最大 RF トラッキング調整
    6 90MHz
    40dB
    mono 1kHz
    90MHz 受信 TCa1
    TCa2
    TCa3
    TCa4
    TCa5
    TCa6
    TCa7
    7 手順5〜6を数回繰り返す
    8 83MHz
    40dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信 La12 S メータ = 最大 FE IF 調整
    9 Lb21 S meter IF 調整
    10 Lb20 [IF 基板]
    10pin = 最大
    BEACON IF 調整
    11 83MHz
    20dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信
    IF band : wide
    VRb3 S メータ = 20 S meter 調整
    12 83MHz
    80dB
    mono 1kHz
    VRb4 S メータ = 80
    13 手順11〜12を数回繰り返す
    14 83MHz
    40dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信
    muting : 40dB
    VRb1 MUTING = ON/OFF 閾 muting 調整
    15 83MHz
    20dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信
    muting : 20dB
    VRb2
    16 手順14〜15を数回繰り返す
    17 83MHz
    20〜40dB
    無変調
    83MHz 受信
    muting : off
    IF band : narrow
    Lb19 Rb64 リア側波形 = 最大
    オシロスコープで観測
    narrow IF 調整
    18 83MHz 受信
    IF band : wide
    Lb15
    Lb16
    Lb17
    Lb18
    wide IF 調整
    19 83MHz
    90dB
    mono 1kHz
    VRc1 R2 右側 = 500mVrms
    オシロスコープで観測
    オーディオ出力レベル調整
    20 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz L-R
    VRc2 以下の [VCO 調整手順] を参照 VCO 調整
    21 La12
    Lb15
    Lb16
    Lb17
    Lb18
    オーディオ出力 (L) = 高調波歪率最小 wide IF 歪補正
    22 83MHz 受信
    IF band : narrow
    Lb19 オーディオ出力 (L) = 高調波歪率最小 narrow IF 歪補正
    23 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz R
    83MHz 受信
    IF band : wide
    VRc4 オーディオ出力 (L) = 最小 セパレーション調整
    24 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz L
    VRc3 オーディオ出力 (R) = 最小
    25 83MHz
    90dB
    mono 1kHz
    VRc5 D メータ = 100% D メータ調整
    26 83.3MHz
    90dB
    mono 1kHz
    VRh3 T メータ = -300kHz T メータ校正
    27 83MHz
    60dB
    AM 1kHz 30%
    VRb5 MULTIPATH-V 出力 = 40mVrms
    オシロスコープで観測
    MULTIPATH 出力調整

  4. 調整結果



使ってみました

  1. デザイン

  2. 端子類

  3. 感度や音質



仕様ほか

  1. ドキュメント

  2. 仕様

    FM 受信部
    受信周波数範囲 76〜90MHz
    アンテナ入力 (A/B 2系統) A F 端子、75Ω不平衡、300Ω平衡
    B F 端子
    S/N 比 50dB クワアイティング感度 mono 2.8uV (IHF)、14.1dBf (新 IHF)
    stereo 30uV (IHF)、34.7dBf (新 IHF)
    感度 0.8uV (75Ω IHF)、1.5uV (300Ω IHF)、8.7dBf (新 IHF)
    歪率 周波数 1kHz 50Hz〜10kHz 15kHz
    wide mono 0.05% 0.08% 0.08%
    stereo 0.07% 0.1% 0.25%
    normal mono 0.09% 0.15% 0.15%
    stereo 0.2% 0.25% 0.4%
    narrow mono 0.15% - -
    stereo 0.4% - -
    S/N 比 (100% 変調、1mV 入力) mono 84dB
    stereo 80dB
    イメージ妨害比 120dB
    選択度 (IHF) wide 30dB (400kHz)
    normal 50dB (400kHz)
    narrow 110dB (400kHz)、60dB (300kHz)
    IF 妨害比 120dB
    スプリアス妨害比 120dB
    AM 抑圧比 65dB
    キャプチャーレシオ wide 0.8dB
    normal 1.0dB
    narrow 1.5dB
    ステレオセパレーション 周波数 1kHz 50Hz〜10kHz 15kHz
    wide 60dB 50dB 40dB
    normal 55dB 45dB 38dB
    narrow 50dB 40dB 33dB
    キャリアケージ ±0.2dB
    周波数特性 50Hz〜10kHz ±0.2dB
    30Hz〜15kHz +0.2dB -0.6dB
    出力/インピーダンス (1kHz, 100%変調) 0.75V/1.3kΩ (固定), 0〜1.5V/100Ω (可変)
    マルチパス出力/インピーダンス 垂直出力 : 40mV/100Ω (AM 1kHz 30%変調)
    水平出力 : 500mV/10kΩ (FM 1kHz 100%変調)
    電源電圧 AC100V, 50/60Hz
    定格消費電力 30W
    電源コンセント 1個 (UnSwitched)
    寸法 440(W)×154(H)×393(D)mm
    重量 11.5kg
    その他
    発売時期 1976年
    定価 150,000円