KENWOOD KT-3030

KENWOOD KT-3030

KENWOOD KT-3030 をゲット！

KENWOOD KT-3030 という 定価12万円の高級 FM 専用チューナ を寄贈いただきました。

KENWOOD の高級機ランクは他社でいうと超高級機ランクに相当します。

程度＆動作チェック

寄贈者のコメント
- 完全動作品です。
外観
- この年代としては奇跡に近い綺麗な外観と思います。
- 天板に僅かなキズがありますが、それほど気にならない程度です。底板には軽い錆が見られます。
- フロントパネル全体に埃が多いです。オーディオ端子類にかなり錆があります。
電源 ON して動作チェック
- 一応、正常に動作しているようです。一番気になる蛍光管表示部は問題なく表示できています。
- 一聴して、ケンウッドらしくない甘い音でステレオ分離度も甘い感じです。
  - 音の解像度が弱い感じです。特にハッキリ判るのは時報の音で、かなり歪みます。
- 背面のオーディオ出力ボリュームが変です。レベル最大位置で L チャンネルの音が途切れることがあります。
- スイッチ類は劣化し始めています。やはり、いろいろ問題ありそうです。

カバーを開けてみました

基板の作りは良く、部品が綺麗に整然と並んでいます。写真をクリックすると拡大写真を表示できます。

電源基板と2階基板は KT-2020 と共通と思われます。

以下の IC を使用して合理化が図られています。

メーカ	IC	機能
JRC	NJM4200D	Analog Multiplier
	NJM4558DN	Dual Operational Amplifier
	NJM4560DN	Dual Operational Amplifier
Panasonic	AN6555	Low Noise Dual Operational Amplifiers
Panasonic	AN7418S	FM Stereo Multiplex Demodulator
Rohm	BA668A	12-Point Fluorescent Display Tube VU Scale Peak
SANYO	LB1290	8-Channel Driver Array
	LB1473	LED 点表示
	LB1493	Bar-Graph Display Driver
TOSHIBA	TC9147BP	Static FM/AM/LM 3 Bands Digital Tuning System
	TD6104P	Programable Counter
	TD6301AP	Static Driver for LED/LCD Receiving Frequency Display

使用 IC のロット番号より、この KT-3030 は1984年製と判明しました。

FM フロントエンド部
- オール FET で6連バリキャップ方式です。同調回路はトラッキング調整できる構成です。
  
  [同調]→[同調]→[Dual Gate FET]→[同調]→[同調]→①→[バランスドミクサ (ペア FET)]
  [OSC 同調 (FET)]→[OSC Buffer 同調 (FET)]→①
FM IF 部
- DLLD (Direct Linear Loop Detector) と DCC (Distortion Collecting Circuit) を組合わせて構成しています。
  - DCC 機能は更に強化され、2次から4次までの高調波歪をキャンセルして低歪化を実現しています。
- IF 帯域は [FM IF BAND] ボリュームで [Super Narrow] [Narrow] [Wide] [Super Wide] の4ポジションに切換できます。
  - [Super Wide] 時
    
    [CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→[IF amp.]→[IF amp.]→[IFT]→[IF amp.]
  - [Wide] 時
    
    [CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→ [CF] →[IF amp.]→[IF amp.]→[IFT]→[IF amp.]
  - [Narrow] 時
    
    [CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→ [CF] →[IF amp.]→ [CF] →[IF amp.]→[IFT]→[IF amp.]
  - [Super Narrow] 時
    
    [CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→[CF]→[IF amp.]→ [CF] →[IF amp.]→ [CF] →[IF amp.]→ [CF] →[IF amp.]
- 以上のように凝った作りになっているので、回路は複雑で調整箇所も多いです。
FM 検波部
- PLL 検波です。この検波出力で同調点を検出しています。ディスクリート構成です。
FM MPX 部
- 38kHz 以外の成分を持たない純粋な正弦波で検波出力と掛算する DPD (Direct Pure Decoder) となっています。
- ディスクリートに近く、回路は複雑で調整箇所も多いです。

リペア

フロントパネル部の清掃と補修
- バラバラに分解して完全清掃しました。構造的に KT-2020 とほぼ同じでした。
- タクトスイッチ×15個全数交換しました。 24年経ってますから全数交換が正解です。これであと20年以上大丈夫でしょう。
- チューニングノブのグリスアップをしました。高級機らしい操作感に戻りました。
- FM IF BAND ボリュームをアルコール洗浄しました。操作時にあったガリノイズが消滅しました。
- FIXED OUTPUT 端子をマイクロ研磨しました。接触抵抗が下がり音質向上しました。
- 蛍光表示器のハンダクラックを補修しました。
リアパネル部の清掃と補修
- バラバラに分解して完全清掃しました。
- OUTPUT LEVEL ボリュームのアルコール洗浄とハンダクラックを補修しました。 LEVEL 最大時の音切れが解消しました。
- VARIABLE OUTPUT 端子と MULTIPATH 端子をマイクロ研磨しました。接触抵抗が下がり音質向上しました。
- アンテナ端子をマイクロ研磨しました。
全体
- 外装には汚れやゴミの付着がありましたが、内部は密閉に近い構造なので綺麗でした。一応、全体のクリーニングをしました。
- 天板は OA クリーナを吹きかけたら汚れが綺麗に洗浄でき、艶が蘇りました。ビニコート鉄板は汚れを溜めやすいです。
- 底板の軽いサビは OA クリーナだけで綺麗に取れました。サビではなくて汚れだったかもしれません。
- 目視できるハンダクラックは全て手直ししました。

調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

FM 受信部の調整

MULTIPATH V 端子に信号強度が出ているので、これを利用します。

手順	SSG出力	KT-3030 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
1	-	FM IF BAND : Super Wide REC CAL : OFF MUTE : OFF RF SELECTOR : DISTANCE		-
2	-	76MHz 受信	L6	TP1 (VT) 電圧 = 3.0V	OSC トラッキング調整
3	-	90MHz 受信	TC6	TP1 (VT) 電圧 = 24.0V
4	手順2と3を数回繰り返す
5	76MHz 30dB 無変調	76MHz 受信	L1 L2 L3 L4 L5	MULTIPATH V 電圧 = 最大	RF トラッキング調整
6	90MHz 30dB 無変調	90MHz 受信	TC1 TC2 TC3 TC4 TC5	MULTIPATH V 電圧 = 最大
7	手順5と6を数回繰り返す
8	83MHz 30dB 無変調	83MHz 受信	L11 L12 L14 L18	MULTIPATH V 電圧 = 最大	IF 調整
10	83MHz 90dB 無変調	83MHz 受信	L20	D34 の L20 側電圧 = 最大オシロスコープで観測	PLL 検波調整
11	83MHz 90dB 無変調		L21	TP7 (Tu) 電圧 = ±10mV 以内	PLL 検波調整
12	83MHz 90dB mono 1kHz		VR1 VR2 VR4 VR6	オーディオ出力 = 高調波歪最小	Super Wide IF 歪補正 (mono)
13	-	FM IF BAND : Wide		-
14	83MHz 90dB mono 1kHz	83MHz 受信	VR8	オーディオ出力 = 高調波歪最小	Wide IF 歪補正 (mono)
15	-	FM IF BAND : Narrow		-
16	83MHz 90dB mono 1kHz	83MHz 受信	VR9	オーディオ出力 = 高調波歪最小	Narrow IF 歪補正 (mono)
17	-	FM IF BAND : Super Narrow		-
18	83MHz 90dB mono 1kHz	83MHz 受信	VR10	オーディオ出力 = 高調波歪最小	Super Narrow IF 歪補正 (mono)
19	-	FM IF BAND : Super Wide		-
20	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R	83MHz 受信	VR12	下の [VCO 調整手順] を参照	VCO 調整
21			L28	R291 (15kΩ) 電源側電圧 = 最大オシロスコープで観測	38kHz SW 信号調整
22			VR11 L26	オーディオ出力 = 19kHz 成分最小	Pilot Cancel 調整
23			VR3 VR5 VR7	オーディオ出力 = 高調波歪最小	Super Wide IF 歪補正 (stereo)
24	83MHz 90dB stereo 1kHz R		VR13	L ch. オーディオ出力 = 最小	Sper Wide セパレーション調整
25	83MHz 90dB stereo 1kHz L		VR14	R ch. オーディオ出力 = 最小	Super Wide セパレーション調整
26	-	FM IF BAND : Wide		-
27	83MHz 90dB stereo 1kHz R/L	83MHz 受信	VR15	L/R ch. オーディオ出力 = 最小	Wide セパレーション調整
28	-	FM IF BAND : Narrow		-
29	83MHz 90dB stereo 1kHz R/L	83MHz 受信	VR16	L/R ch. オーディオ出力 = 最小	Narrow セパレーション調整
30	-	FM IF BAND : Super Narrow		-
31	83MHz 90dB stereo 1kHz R/L	83MHz 受信	VR17	L/R ch. オーディオ出力 = 最小	Super Narrow セパレーション調整
32	-	FM IF BAND : Super Wide		-
33	83MHz 70dB 無変調	83MHz 受信	VR18	S メータ = フル	S メータ調整
34	83MHz 70dB 無変調		[2階基板] VR2	S メータ = センタ	S メータ調整 (T メータに相当)
35	83MHz 90dB mono 400Hz		[2階基板] VR1	M メータ = 100%	M メータ調整

VCO 調整手順

手順	備考
1	VR12 を反時計方向に回し切る
2	VR12 を徐々に時計方向に回し、ディスプレイの [STEREO] 表示が点灯した位置を記録する
3	VR12 を時計方向に回し切る
4	VR12 を徐々に反時計方向に回し、ディスプレイの [STEREO] 表示が点灯する位置を記録する
5	VR12 を [手順2] と [手順4] の中間に設定する

再調整結果

ステレオセパレーションとキャリアリークは以下となりました。
[Super Wide]～[Super Narrow] でそれほど変わらない素晴らしい数字です。

項目	IF Band	L	R	単位
ステレオセパレーション (1kHz)	Super Wide	64	66	dB
	Wide	69	64	dB
	Narrow	61	58	dB
	Super Narrow	55	55	dB
パイロット信号キャリアリーク	Super Wide	-63	-67	dB
オーディオ出力レベル偏差 (mono)	Super Wide	0	0	dB

使ってみました

デザイン
- FM 専用機 ということで、マニア受けします。昔から超高級機は FM 専用であることが多いです。
- フロントパネルが分厚いヘアラインアルミ板で、チューニングツマミやボタンもアルミ材と質感が良いです。
- ただし、外観は定価7.5万円の KENWOOD KT-2020 とほぼ同じです。
- 天板はビニコート鉄板、足はプラスチック、プリセットポタンはプラスチックと KT-2020 と全く同じです。
- KT-3030 は定価12万円もするので、KT-2020 と差をつけて欲しかったです。ここは残念です。
- FM アンテナ入力は F 端子になっていて、不要な妨害電波の混入を避けることができます。
- 背面オーディオ出力はレベル調整できるようになっています。
- 背面オーディオ出力の隣には [MALTIPATH] 端子があります。
  - ここにオシロスコープを X-Y モードで接続して観測すると、マルチパス妨害状況を把握することができます。
  - アナログチューナにはよくあった端子ですが、デジタルチューナにこの端子があるのは珍しいです。
- S メータのバーが9本あります。
  - 左4本・中央1本・右4本で、それぞれ7段階表示です。
  - 左と右のバーは赤色で、中央は白色です。
  - 同調ノブを右回転していくと、放送局が見つかったら、まず左バーが赤表示されます。
  - 更に右回転すると、左バー表示が消えて中央バーが白表示され、周波数がピッタリ合います。
  - 更に右回転すると、中央バー表示が消えて右バーが赤表示されます。
  - アナログ式の T メータのシミュレーションをやっているようです。
- シグナル強度表示の下側に [MODULATION (%)] 表示があります。
  - 変調度を表示してくれるというものです。ピークホールド付きで見易く、見ていて面白いです。
- 電源スイッチの下側に [PRESET] スライドスイッチがあります。
  - 3ポジションあり、左から [PRESET B] [PRESET A] [PROGRAM] です。
  - [PRESET A] で8局、[PRESET B] で8局の合計16局分プリセット可能です。
  - 電源 OFF にしてから [PROGRAM] 位置にするとタイマー録音対応のプログラムが動作します。
  - 電源 ON の度に [電源 OFF 直前に受信していた局]→[PRESET A6]→[PRESET A7]→[PRESET A8] の順で放送局が呼び出されます。
- プリセットボタンの上に [FM IF BAND] ボリュームがあります。
  - ボリュームということで、IF 帯域を連続的に可変できそうですが、回路図を見ると4ポジションにしか切換できません。
  - なぜボリュームにしたのか疑問です。左から [Super Narrow] [Narrow] [Wide] [Super Wide] となります。
- フロントパネル左下には固定出力オーディオ端子があります。
- 選局時のミューティング時間設定が長いのか、新たに選局すると音が出てくるまでに2秒くらいかかります。
  - 一瞬故障したのかと心配になるくらいです。
感度と音質
- 感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良い です。
- 強制モノラル受信機能がありません。
  - 受信電波が 30dB 以下になると Auto Queiting Control 機能（Hi-Blend）が徐々に効き始めます。
- かなり電波が弱い放送局を受信しても雑音で聴いていられないという事がないです。
  - 雑音が綺麗なホワイトノイズ風なのでそれなりに放送を聴けてしまうのです。超高級機の意地でしょうか？？？
- 超高級機らしい非常に安定した音質 です。
  - ジャズ音楽で楽器が非常にリアルに聴こえます。
  - セパレーションや解像度が良く、ビブラホンの音の聴こえる方向にハッとふり向いてしまうほどです。
往年の名器が完全復活しました！
- 調整を進めていくごとにみるみる音質が向上していくのが判りました。
- 超高級や高級チューナはやはり定期的なオーバーホールをしてあげないと可哀想です。

S メータ

FM アンテナ入力レベルと S メータの振れの相関関係を測定してみました。
- 1～7 とあるのはレベル表示、×が消灯、○は点灯です。
これを見ると、S/N 良く受信するためには、レベル6以上の必要があるようです。

レベル3以下になると Auto Queiting Control 機能（Hi-Blend）が徐々に効き始めます。

アンテナ入力 (dB)	1	2	3	4	5	6	7
～9	×	×	×	×	×	×	×
10～14	○	×	×	×	×	×	×
15～21	○	○	×	×	×	×	×
22～32	○	○	○	×	×	×	×
33～45	○	○	○	○	×	×	×
46～55	○	○	○	○	○	×	×
56～69	○	○	○	○	○	○	×
70～	○	○	○	○	○	○	○

仕様＆その他

ドキュメント
- KT-3030 取扱説明書
- KT-3030 の輸出型名は KT-1100SD です。下のマニュアルは参考になります。
  - KT-1100SD Service Manual
  - KT-1100SD Schematic

仕様

項目	仕様
受信周波数範囲	76～90MHz
アンテナインピーダンス	75Ω不平衡型
感度（IHF, 75Ω）	DISTANCE : 0.95μV/10.8dBf DIRECT : 5.0μV/25.2dBf
S/N 比 50dB 感度	DISTANCE MONO : 1.77μV/16.2dBf DIRECT MONO : 10.0μV/31.2dBf DISTANCE STEREO : 22μV/38.1dBf DIRECT STEREO : 100μV/51.2dBf
高調波歪率 (100% 変調）	MONO WIDE : 0.006% (100Hz), 0.004%（1kHz）, 0.009%（50Hz～10kHz） MONO SUPER NARROW : 0.02% (100Hz), 0.01%（1kHz）, 0.02%（50Hz～10kHz） STEREO WIDE : 0.009% (100Hz), 0.007% (1kHz), 0.03% (50Hz～10kHz) STEREO SUPER NARROW : 0.03% (100Hz), 0.02% (1kHz), 0.1% (50Hz～10kHz)
S/N 比 (100% 変調, 85dBf 入力時)	MONO : 99dB STEREO : 91dB
キャプチャーレシオ	WIDE : 0.8dB SUPER NARROW : 2.0dB
実効選択度 (IHF : ±400kHz)	WIDE : 70dB SUPER NARROW : 100dB
ステレオセパレーション	WIDE : 71dB (1kHz), 60dB (50Hz～10kHz), 50dB (15kHz) SUPER NARROW : 60dB (1kHz), 50dB (50Hz～10kHz), 45dB (15kHz)
周波数特性	20Hz～15kHz ±0.5dB
イメージ妨害比 (84MHz)	100dB
IF 妨害比 (84MHz)	110dB
スプリアス妨害比 (84MHz)	110dB
AM 抑圧比	70dB
サブキャリア抑圧比	75dB
出力レベル/インピーダンス (FM 1kHz, 100% 変調)	固定出力 : 0.6V/2.3kΩ 可変出力 : MAX 1.2V/1.0kΩ
マルチパス出力	垂直出力 : 0.05V/10kΩ 水平出力 : 0.6V/10kΩ
電源電圧・電源周波数	AC100V, 50/60Hz
定格消費電力（電気用品取締法）	16W
寸法	440(W)×88(H)×326.5(D)mm
重量	4.6kg
メモリーバックアップ保証時間	7日 (168時間)
その他
発売時期	1984年
定価	120,000円
付属品	T 型 FM アンテナ両ピンコード 75Ω/300Ωアンテナアダプタ取扱説明書保証書