SONY ST-S333ESA (9号機) が到着
2023年3月27日、鹿児島市の T さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が到着しました。
T さんは ST-S333ESA を2台お持ちで、
ST-S333ESA (8号機)
に続いて2台目の修理依頼です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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電源を切ると FM のプリセットメモリが消えます。
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AM は全く聞きません。
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外観
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製造シリアル番号は [202160] で、電源コードの製造マーキングより [1992年製造品] と判明しました。
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AM ループアンテナは [四角いもの] [楕円形のもの] の2個添付されていました。
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ST-S333ESA の純正は [四角いもの] です。
よって AM はこのループアンテナで最高感度になるよう調整します。
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フロントパネル、側板、リアパネル、天板、底板は全て綺麗な逸品です。
リアパネルの端子類は綺麗です。
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フロントパネルに粘着性ゴミなど気になる汚れがあります。
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フロントパネルにある [PROGRAM] ノブがグラグラしています。
ネジが緩んでいるのかな?
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入り、各ボタンやノブはちゃんと反応します。
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ディスプレイの輝度は新品同様です。
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FM 受信
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問題なく受信でき [STEREO] 表示も出ますが、感度低下しているようです。
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プリセットメモリに記憶して1時間後でも記憶は残っていました。
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修理依頼者の言う [電源を切るとFMのプリセットメモリが消える] は半日〜数日という単位での不具合と思います。
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到着時の性能データを測定しました。
聴ける程度ですが、WIDE 時の高調波歪率が少し悪いようです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
44 |
50 |
dB |
NARROW |
40 |
35 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.22 |
% |
stereo |
0.27 |
% |
NARROW |
mono |
0.39 |
% |
stereo |
1.3 |
% |
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AM 受信
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カバーを開けてチェック
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基板上に薄っすらとした綿埃が溜まっています。
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誰かが既に部品交換などをして、いじくった形跡があります。
リペア
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電源を切ると FM のプリセットメモリが消える ・・・ 修理依頼者より
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1時間ほど電源 OFF してチェックしたのですが、メモリ消えは確認できませんでした。
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ただし、バックアップ用電気二重層コンデンサの [C605] の電圧をチェックしてみると、電源 OFF でストンと 2V 台に落ち込みます。
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[C605] は故障しており、これとほぼ並列に入っている [C603] 10uF/6.3V タンタルコンデンサでバックアップしていると思います。
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[C605] 0.1F/5.5V → 1F/5.5V と交換しました。
右の写真の縦型の電気二重層コンデンサです。
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サイズが大きいので縦型でないと基板に乗らないです。
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製造から31年経過 (2023年現在) しているので交換時期でもあります。
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交換後、[C605] の電圧をチェックすると、電源 OFF でもストンと落ちることはなくなり 5V 付近から放電が始まるのが確認できました。
よって、これで直ったと思います。
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0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
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[C603] はタンタルコンデンサで、これもいつまで持つか心配な部品です。
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しかも耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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心配なので、[C603] を [10uF/6.3V タンタル]→[10uF/25V 無極性電解 (MUSE/ES)] に予防交換しました。
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右の写真の中央にある緑色の部品です。
この部品の右側で基板の端に今回交換した電気二重層コンデンサも見えます。
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FUSE 抵抗のチェック
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FUSE 抵抗は各回路の電源部に使われています。
この抵抗は劣化しやすいのが難点です。
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誰かが既に FUSE 抵抗の大部分を交換しているようです。
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R516 180Ω のところ、150Ω+33Ω の直列に交換されており不細工です。
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結果、R279 と R516 を交換しました。
R259 には取り付け不具合があったので、補修しました。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
94.8 |
〇 |
|
WOIS |
R203 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R207 |
10 |
10.2 |
〇 |
|
R211 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R227 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
IF |
R259 |
100 |
98.8 |
〇 |
取付不良のため補修 |
DET |
R274 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R279 |
220 |
158 |
△ |
220Ω 1/2W に交換 |
R292 |
100 |
98.7 |
〇 |
|
MPX |
R301 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
R327 |
47 |
46.4 |
〇 |
|
AM |
R403 |
220 |
217 |
〇 |
|
R410 |
150 |
150 |
〇 |
|
PLL |
R511 |
220 |
217 |
〇 |
|
R516 |
180 |
150+33 の直列 |
△ |
180Ω 1/2W に交換 |
CONTROL |
R626 |
47 |
46.4 |
〇 |
|
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
22.3 |
〇 |
|
R921 |
220 |
218 |
〇 |
|
R931 |
220 |
219 |
〇 |
|
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FM の感度が低下している
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原因は主にフロントエンドのトラッキング調整ズレでした。
再調整で大きく感度アップしました。
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WIDE 時の高調波歪率が悪い
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修理依頼者は気付いていないかもしれませんが、ST-S333ESA としては悪すぎるので調査しました。
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結果、PLL 検波で使ってる OP アンプ IC272 (M5220) が劣化していました。
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出力の 1pin のインピーダンスが高くなっており、ここから歪成分を出していました。
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IC272 部分を IC ソケット化してから、[M5220] より性能が良い [NJM4580DD] と交換して直りました。
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右の写真の IC ソケットに乗った黒い IC が [NJM4580DD] です。
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ハンダクラック対策
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ST-S333ES シリーズでは銅製のアースバーが敷かれています。
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これはこれで素晴らしいのですが、経年変化でアースバーでハンダクラックが発生しやすいのです。
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目視でハンダクラックとわかる箇所ありませんでしたが、2箇所でハンダの腐食かありました。
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アースバーの全てに補修ハンダを行い、良好になりました。
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リアパネルの端子類
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どうしても端子のリードと基板の間で機械的なタワミを原因とするハンダクラックが発生しやすいのです。
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オーディオ出力端子の L ch. のプリントパターンで断線しかけていました。
ハンダクラックよりもっと深刻です。
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全ての端子のリードと基板のハンダ付け部分に補修ハンダを行い、良好になりました。
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基板上に薄っすらとした綿埃が溜まっている
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刷毛とブロアを使って軽く清掃したら綺麗になりました。
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フロントパネルにある [PROGRAM] ノブがグラグラしている
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フロントパネルを分解して調べたところ、予想通りノブ軸を固定する六角ナットが緩んでいました。
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六角ナットを再締め付けして、念のためネジロック剤を塗布しました。
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フロントパネル分解のついでに、透過パネルをクリーニングしたら、ディスプレイがクッキリ・ハッキリ見えるようになりました。
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煤のような黒い汚れが取れたので、輝度が上がったように感じます。
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フロントパネルに粘着性ゴミなど気になる汚れがある
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[OA クリーナ] [無水アルコール] を使って軽くクリーニングしてマシになりました。
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交換した部品の記録
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右の写真は基板に元付いていた故障した部品です。
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上の段は左から [電気二重層コンデンサ] 、[M5220 (IC)] です。
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下の段は左から [抵抗]×3本、[タンタルコンデンサ] です。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.2V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+15.2V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.9V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.0V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5.6V |
+5.72V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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同調点以外でそう調整ズレはなかったです。
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FM は再調整で下のような非常に良好な数値となりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
60 |
65 |
dB |
NARROW |
40 |
45 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.025 |
% |
stereo |
0.025 |
% |
NARROW |
mono |
0.39 |
% |
stereo |
0.65 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-70 |
-72 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
-5.2 |
dB |
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AM は純正ループアンテナの添付がなく、RF 系調整ができないので、IF 調整のみとしました。
使ってみました
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今回の修理の感想
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修理依頼者からは [メモリバックアップできない] 依頼だけでしたが、実際に着手してみると色々不具合が発見され、少々大変でした。
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おそらく修理依頼者のほうで不具合に気付いていないので、仕方なのですが。
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やはり計器を使ってちゃんとメンテナンスすると悪いところが見えてきます。
10年に1度くらいはメンテナンスしたほうがよいです。
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全体的にゴールド基調のデザイン
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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サイドウッドは鏡面仕上げでラウンド加工されています。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。