SONY ST-S333ESA (6号機) が到着
2022年12月15日、岐阜市の Y さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が到着しました。
到着した状態のまま、状態チェック
-
依頼者のコメント
-
FM を聴きながら仕事をしていますが、感度が悪くなりステレオ受信出来なくなりました。
-
点検調整修理をお願いします。
-
外観
-
製造シリアル番号は [200084] で、電源コードの製造マーキングより1991年製と判明しました。
-
AM ループアンテナが添付されていました。
-
フロントパネル、リアパネル、天板、底板は全て綺麗な逸品です。
リアパネルの端子類は綺麗です。
-
右サイドウッドの前側下に少しのハガレ、後側下にやや大きなハガレがあります。
問題はここだけなので残念です。
-
電源 ON にて確認
-
電源は問題なく入り、ディスプレイの輝度は十分です。
各ボタンやノブはそれなりに反応します。
-
FM は大きく感度低下しているので、放送を受信しても S メータは最小レベルしか振れません。
-
オートチューニングは全くできません。
マニュアルチューニングで放送を受信できましたが、[STEREO] ランプが点灯しません。
-
[STEREO] ランプが点灯しないのでモノラルですが、音は良いです。
-
AM は問題なく受信できました。
リペア
-
FM の感度が大きく低下している
-
原因は2つありました。
-
1つは同調用トリマコンデンサの劣化です。
-
3個あるトリマコンデンサを右の写真の 10PF に全数交換しました。
-
もう1つは [IC251] の [LA1235] IC 劣化です。
-
IC ソケット化してから [LA1235] を交換しました。
-
この IC で [IF 増幅] [クォードラチュア検波] [S メータレベル抽出] をしています。
-
上記の部品を交換してから、再調整して完全に直りました。
-
[S メータの振れが僅少] [オートチューニングできない] [STEREO ランプが点灯しない] 現象も同時に直りました。
-
FUSE 抵抗のチェック
-
FUSE 抵抗は各回路の電源部に使われています。
この抵抗は劣化しやすいのが難点です。
-
念のためチェックしてみると、大きく劣化している抵抗がかなりありました。
-
判定に×△を付けた抵抗を交換して良好になりました。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
126 |
〇 |
|
WOIS |
R203 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R207 |
10 |
11.8 |
〇 |
|
R211 |
10 |
11.3 |
〇 |
|
R227 |
10 |
12.2 |
〇 |
|
IF |
R259 |
100 |
138 |
△ |
100Ωに交換 |
DET |
R274 |
10 |
10.7 |
〇 |
|
R279 |
220 |
183 |
〇 |
|
R292 |
100 |
129 |
〇 |
|
MPX |
R301 |
10 |
11.5 |
〇 |
|
R327 |
47 |
159 |
× |
47Ωに交換 |
AM |
R403 |
220 |
404 |
× |
220Ωに交換 |
R410 |
150 |
243 |
× |
150Ωに交換 |
PLL |
R511 |
220 |
424 |
× |
220Ωに交換 |
R516 |
180 |
248 |
△ |
180Ωに交換 |
CONTROL |
R626 |
47 |
95.4 |
× |
47Ωに交換 |
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
25.8 |
〇 |
|
R921 |
220 |
255 |
〇 |
|
R931 |
220 |
258 |
〇 |
|
-
プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサを予防交換
-
本機は1991年製で
31年物ビンテージ
(2022年時点) です。
-
おそらく、プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサは経年変化して容量がかなり減っていると思います。
-
電気二重層コンデンサは [C605] で [0.1F/5.5V] が実装されています。
これを右の写真の [1F/5.5V] に交換しました。
-
0.1F→1F へと10倍の容量になりましたが ・・・
-
取扱説明書には、(プリセットメモリは) [電源を切った状態でも、約1ヶ月間保存されます] と記載されています。
-
今回の交換で容量が10倍になったので、理論上は10ヶ月バックアップ保持できることになります。
-
でもこれは机上の計算で、実際には数ヶ月でしょう。
-
ハンダクラック対策
-
ST-S333ES シリーズでは銅製のアースバーが敷かれています。
-
これはこれで素晴らしいのですが、経年変化でアースバーでハンダクラックが発生しやすいのです。
-
目視でハンダクラックとわかる箇所が何か所もありました。
アースバーの全てに補修ハンダを行いました。
-
リアパネルの端子類
-
どうしても端子のリードと基板の間で機械的なタワミを原因とするハンダクラックが発生しやすいのです。
-
目視で、オーディオ出力 RCA 端子が両方ともハンダクラックしていました。
-
全ての端子のリードと基板のハンダ付け部分に補修ハンダを行いました。
-
交換した部品の記録
-
交換部品リストは以下です。
写真は基板に元付いていた故障した部品です。
-
左から [トリマコンデンサ×3個] [LA1235] [電気二重層コンデンサ 0.1F/5.5V] [FUSE 抵抗×7本] です。
再調整
-
電源電圧チェック
-
特に問題なく良好です。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.9V |
+30.9V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+16.3V |
+15.0V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.5V |
-18.2V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.6V |
+13.5V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.6V |
+5.56V |
〇 |
DIGITAL |
-
調整結果
-
ST-S333ESA (1号機)
に記載の調整手順にて再調整しました。
-
やはり
31年物ビンテージ
(2022年時点) ですから、あちこち経年変化のズレがありました。
-
FM は再調整で下のような非常に良好な数値となりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
67 |
70 |
dB |
NARROW |
40 |
44 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.008 |
% |
stereo |
0.02 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-74 |
-76 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.26 |
dB |
CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.0 |
-6.0 |
dB |
-
AM は僅かにトラッキングのズレがあったので調整して良好になりました。
使ってみました
-
全体的にゴールド基調のデザイン
-
フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
-
サイドウッドは鏡面仕上げでラウンド加工されています。
-
FM 受信
-
感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
-
解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
-
AM 受信
-
感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。