SONY ST-S333ESA (10号機) が到着
2023年4月26日、石川県金沢市の N さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が到着しました。
この画像は修理完了後です。
到着時は S メータが全く振れていませんでした。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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FM の感度が悪く STEREO にならない。
AM の感度が悪く出力が小さい。
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全体のチェックと調整をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [202271] で、電源コードの製造マーキングより [1992年製造品] と判明しました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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フロントパネルにキズはなく綺麗です。
[同調ノブ] が素晴らしい金色です。
たぶん、タバコのヤニが付いているのだと思います。
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リアパネルにキズはなく綺麗です。
端子類に使用に問題なさそうなクスミがあります。
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天板、左右側板、底板にキズはなく綺麗です。
総合して外観はかなり良いです。
タバコのヤニと思われる汚れはありますが。
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入りました。
各ボタンが非常に効きにくいです。
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ディスプレイの輝度にムラがあって劣化していますが、まだまだ使えそうです。
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FM は S メータがほぼ振れず、大きく感度低下しています。
何とか音は出ますが [STEREO] 表示が出ません。
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AM は S メータが振れず、全く受信できません。
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オーディオ出力の RCA 端子を揺すると音が途切れます。
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カバーを開けてチェック
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基板上に薄っすらとした煤状のゴミがありますが、綺麗なほうです。
リペア
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FUSE 抵抗のチェック
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FUSE 抵抗は各回路の電源部に使われています。
この抵抗は劣化しやすいのが難点です。
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以下のように約半分で極端に劣化していました。
これらを交換しました。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
88.6 |
〇 |
|
WOIS |
R203 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R207 |
10 |
10.2 |
〇 |
|
R211 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
R227 |
10 |
10.3 |
〇 |
|
IF |
R259 |
100 |
165 |
× |
100Ω 1/2W に交換 |
DET |
R274 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
R279 |
220 |
192 |
〇 |
|
R292 |
100 |
250 |
× |
100Ω 1/2W に交換 |
MPX |
R301 |
10 |
10.2 |
〇 |
|
R327 |
47 |
86.3 |
× |
47Ω 1/2W に交換 |
AM |
R403 |
220 |
319 |
× |
220Ω 1/2W に交換 |
R410 |
150 |
284 |
× |
150Ω 1/2W に交換 |
PLL |
R511 |
220 |
237 |
〇 |
|
R516 |
180 |
326 |
× |
180Ω 1/2W に交換 |
CONTROL |
R626 |
47 |
104 |
× |
47Ω 1/2W に交換 |
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
369 |
× |
22Ω 1/2W に交換 |
R921 |
220 |
237 |
〇 |
|
R931 |
220 |
224 |
〇 |
|
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オーディオ出力の RCA 端子を揺すると音が途切れる
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端子のリードが4ピンとも完全にハンダクラックして、グラグラになっていました。
補修ハンダ付けして直りました。
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[F 端子×2] [AM アンテナ端子] [アースバー×8] も危ないので、同様に補修ハンダ付けしました。
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FM は S メータがほぼ振れず、大きく感度低下している
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原因は FM フロントエンド内の [CT103] トリマコンデンサの容量抜けでした。
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[CT101] [CT102] [CT103] を右の写真のセラミックトリマ 10pF に交換して直りました。
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仮調整すると、S メータが元気よく振れるようになりました。
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AM は S メータが振れず、全く受信できない
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原因は [IFT401] の故障でした。
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基板から取り外して調べたところ、2次側巻線が断線していました。
緑青サビでの腐食です。
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こうなると、この IFT の修理再生は不可能です。
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手持ちの AM IFT と交換して直りました。
交換後、S メータが元気よく振れるようになりました。
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手持ちの AM IFT は元 Technics ST-G560 の [Z202] IF フィルタから取り外したものです。
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形状やピンアサインもピッタリ合ったので、そのまま交換できました。
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左の写真は元の IFT、右の写真は交換した IFT です。
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各ボタンが非常に効きにくい
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原因はタクトスイッチの劣化です。
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本機はタバコのヤニ (と思われる) で汚れていたので、これがスイッチ接点に影響したと思います。
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部分的に交換という訳にはいかないので、全数の25個を一斉交換して直りました。
適合サイズは 6×6×5mm です。
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タクトスイッチ交換前のフロントパネル基板
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タクトスイッチ交換後のフロントパネル基板
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[電気二重層コンデンサ] の予防交換
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[C605] 0.1F/5.5V 電気二重層コンデンサでプリセットメモリをバックアップしています。
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製造から31年経過 (2023年現在) しているので交換時期です。
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右の写真の縦型の電気二重層コンデンサ 1F/5.5V に交換しました。
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0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
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[タンタルコンデンサ] の予防交換
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[C603] はタンタルコンデンサで、これもいつまで持つか心配な部品です。
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しかも耐圧が 6.3V しかありません。
ここには 6V 近くの電圧がかかります。
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タンタルコンデンサは耐圧を超えた電圧がかかると簡単に内部短絡します。
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半世紀前に [人気者] だったタンタルコンデンサは、現在では短絡事故が多いことから [嫌われ者] になっています。
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心配なので、[C603] を [10uF/6.3V タンタル]→[10uF/35V オーディオ電解 (FG)] に予防交換しました。
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右の写真の中央にある金色の小さい部品です。
この部品の右側で基板の端に今回交換した電気二重層コンデンサも見えます。
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交換した部品の記録
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写真は基板に元付いていた故障した部品です。
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左から [トリマコンデンサ] [AM IFT] [電気二重層コンデンサ] [タンタルコンデンサ] [FUSE 抵抗] [タクトスイッチ] です。
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たぶんタバコのヤニでフロントパネルが汚れている
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フロントパネル内外を
NEW プロインパクト中性クリーナ
で清掃しました。
オーディオ機器ですから、中性であることが重要です。
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[リアパネル] [天板] [底板] [左右の側板] も同様に清掃しました。
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基板上に薄っすらとした煤状のゴミがある
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刷毛とエアブロアで軽く清掃しました。
基板には部品が載っているので、完全には清掃できません。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.5V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+14.8V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.5V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.2V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5.6V |
+5.70V |
〇 |
DIGITAL |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信部
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フロントエンドは故障していたので、調整前後の変化はわかりません。
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[同調点] [WOIS] [DET] [MPX] は大きく調整ズレしていました。
ハッキリ言って全部調整ズレしていたのです。
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再調整で下のような非常に良好な数値となりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
60 |
63 |
dB |
NARROW |
35 |
35 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
stereo |
0.015 |
% |
NARROW |
mono |
0.09 |
% |
stereo |
0.09 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-73 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.01 |
dB |
CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-5.8 |
dB |
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AM 受信部
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純正ループアンテナの添付があったので、このアンテナで最高感度になるよう調整しました。
使ってみました
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今回の修理の感想
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FM/AM ともボロボロという悲惨な状況での入院でした。
新品時の性能に復活させることができ、ホッとしました。
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25個もあるタクトスイッチの交換には
電動式ハンダ吸引機
が役に立ちました。
片手で作業できるので効率が上がりました。
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全体的にゴールド基調のデザイン
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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サイドウッドは鏡面仕上げでラウンド加工されています。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。