TRIO KT-900

TRIO KT-900 が到着！

2009年11月25日、 TRIO KT-900 の修理依頼品が到着しました。

デザインが優れたパルスカウント検波バリコン式チューナです。

さてさて直るかな？？？

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程度＆動作チェック

1. 外観
   
   
   • 天板に2箇所程度目立つ線キズがあるものの、これ以外はキズやサビがない美品です。
     
     
2. 到着した状態のまま電源 ON してチェック
   
   
   • ランプ切れはありません。
     
     
   • FM 受信は -4MHz の周波数ズレ（80MHz の電波が目盛 76MHz で受信）があり、このため感度が悪いです。
     
     
   • AM 受信は全く問題ありません。 若干の周波数ズレはあります。
     
     

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カバーを開けてみました

1. 基板の作りは良い 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。
   
   
   • バリコン式チューナ最後期の製品なので、使用している IC や回路はシンセサイザ式チューナと変わりません。
     
     
   • 抵抗など少し大き目の部品を使っており、点検用底板があります。 このため、メンテナンスが楽です。
     
     
   • 使用 IC のロット番号より、この KT-900 は1980年製と判明しました。 電源ケーブルの製造マーキングも1980年でした。
     
     
2. 以下の IC を使用して合理化が図られています
   
   

   メーカ	IC	機能
   HITACHI	HA1197	AM Radio Receiver System
   	HA12016	FM Stereo Multiplex Decoder
   NEC	uPC1163H	FM IF Amplifier
   Panasonic	AN6551	Dual Operational Amplifier
   	AN6877	7-Dot LED Driver Circuits
   TRIO-KENWOOD	TR4011	Pulse Count Detector
   	TR7020	Quadrature Detector & IF Down Convert

   
   
3. FM フロントエンド
   
   
   • 以下の4連バリコン構成です。
     
     
     
     
   • [Mixer] と [OSC] には両方をまとめた専用ハイブリッド IC が使われています。
     
     
   • RF 系は2点トラッキング調整できますが、空芯コイルなので調整は難しいです。
     
     
   • OSC はトリマコンデンサによる1点トラッキングです。 コイルは高周波接着剤でしっかり固められているので調整不可です。
     
     
4. FM IF 部
   
   
   • 以下の構成です。 WIDE 側にゲイン調節ボリュームがあります。
     
     
   • WIDE 時
     
     (フロントエンド IFT)→[UP-CF]→[TR]→ [WIDE GAIN VR] →[uPC1163H]→[UP-CF]→[TR7020]
     
     
   • NARROW 時
     
     (フロントエンド IFT)→[UP-CF]→[TR]→ [CF]→[CF] →[uPC1163H]→[UP-CF]→[TR7020]
     
     
5. FM 検波部
   
   
   • 第3世代パルスカウント検波 です。
     
     
   • [TR7020] のクォードラチュア検波を使って S メータ回路と T メータ回路を構成し、同時に IF 10.7MHz → 1.96MHz に周波数変換します。
     
     
   • 周波数変換された 1.96MHz を [TR4011] でパルスカウント検波します。
     
     
6. FM MPX 部
   
   
   • [HA12016] を使った PLL MPX です
     
     
   • [WIDE] [NARROW] 別々にセパレーション調整ボリュームがあります。
     
     
   • セパレーション調整ボリュームは左右チャンネル共通（1個）です。
     
     
7. AM 受信部
   
   
   • フロントエンドは2連バリコンです。 [HA1197] で全てを構成します。
     
     

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リペア

1. 周波数ズレが -4MHz もある
   
   
   • FM フロントエンド OSC 部のトリマコンデンサが容量抜けして、回しても 0PF のままです。 これが原因です。
     
     
   • この時期の TRIO チューナ全般的にこの障害が多いです。 トリマコンデンサの選択に問題があったのですが、設計時にそれが予想できなかったのだと思います。 まさか30年もこのチューナが使い続けられると思わなかった ・・・
     
     
   • トリマコンデンサ (12PF) を交換するためには、FM フロントエンドユニットをメイン基板から一旦取り外す必要があります。 ところが構造的に大仕事になりそうです。 作業でメイン基板を痛める心配もあります。
     
     
   • トリマコンデンサ交換は諦め、代わりに写真のように別のトリマコンデンサをバリコンの活栓側とグランドに取り付けました。
     
     
   • トリマコンデンサにはホット側とコールド側があるので、コールド側が GND になるようにします。
     
     
   • ハンダ付けできそうな GND が無かったので、バリコン羽近くにあるネジ穴を利用しました。
     
     
   • アース端子にナットとワッシャを絡ませて、ネジの先が AM OSC バリコン羽のホット側に接触するのを回避しています。
     
     
2. クリーニング
   
   
   • 全体を軽く清掃しました。
     
     

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調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

　　

1. 調整ポイント
   
   
   
   

   FM/AM	機能	種別	調整ポイント	調整内容
   FM	フロントエンド	L	FL2 FL3 FL4	RF トラッキング
   		TC	FTC4 FTCR1 FTCR2
   		L	FL5	OSC トラッキング
   		TC	FTC5
   		IFT	FT1	IF
   	IF	VR	VR1	WIDE GAIN
   		IFT	L3	NOISE TUNE
   		IFT	L4	同調点 (NULL)
   	DET	L	L5	2nd OSC (8.74MHz)
   		BPF	L6	2nd IF (1.96MHz)
   		LPF	L8	アンチバーディフィルタ
   		VR	VR2	REC LEVEL
   	MPX	VR	VR3	WIDE セパレーション
   			VR4	NARROW セパレーション
   			VR5	VCO フリーラン周波数
   		LPF	L9	キャリアリークフィルタ (L)
   			L10	キャリアリークフィルタ (R)
   AM	フロントエンド	L	L11	RF トラッキング
   		TC	TC1
   		L	L12	OSC トラッキング
   		TC	TC2
   	IF	IFT	L13	IF

   
   
2. テストポイント (TP)
   
   

   FM/AM	TP	接続先	内容	備考
   FM	R24	R24 両端	T メータ (同調点)	FM 受信同調で 0±10mV
   	R43F	R43F〜GND 間	2nd IF 周波数	1.96MHz
   	R56R	R56R〜GND 間	VCO 周波数	76kHz±200Hz
   FM AM	R136F	R136F〜GND 間	S メータ	受信レベル

   
   
3. 電圧チェックポイント (VP)
   
   

   VP	標準値	実測値	判定
   J83	+14V	+13.25V	〇

   
   
4. FM 受信部の調整
   
   
   • (注1) VR4→VR3 の順番を逆にしないこと。 VR4 は WIDE/NARROW 両方に有効で、VR3 は WIDE だけに有効です。
     
     

   手順	SSG出力	KT-900 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	SELECTOR : FM REC CAL : OFF LOCK : OFF MODE : MONO	-	-
   2	10.7MHz 90dB 変調 : OFF	IF BAND : NARROW SSG 出力を CF1 一番右に注入する	L4	R24 両端電圧 = 0±10mV	FM 同調点調整
   3	83MHz 90dB 変調 : OFF	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	FTC5		OSC トラッキング調整
   4	83MHz 40dB 変調 : mono 1kHz		FTC4 FTCR1 FTRC2	R136F〜GND 間電圧 = 最大	RF トラッキング調整
   5			FT1		IF 調整
   6			-	R136F〜GND 間電圧 = 測定
   7		83MHz 受信 IF BAND : WIDE	VR1	R136F〜GND 間電圧 = 手順6と同一	IF WIDE ゲイン調整
   8	83MHz 90dB 変調 : OFF	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	L5	R43F〜GND 間周波数 = 1.96MHz	2nd IF 周波数調整 周波数カウンタで測定
   9			VR5	R56R〜GND 間周波数 = 76kHz±200Hz	VCO フリーラン周波数調整 周波数カウンタで測定
   10	83MHz 90dB 変調 : stereo 1kHz	83MHz 受信 IF BAND : WIDE	FT1	オーディオ出力 = 高調波歪率最小	IF 歪調整 ±180度の範囲で調整
   11	83MHz 90dB 変調 : stereo R/L only 1kHz	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	VR4	L/R オーディオ出力電圧 = 最小	NARROW セパレーション調整 (注1)
   12		83MHz 受信 IF BAND : WIDE	VR3		WIDE セパレーション調整 (注1)
   13	83MHz 90dB 変調 : mono 400Hz (100%)	83MHz 受信 IF BAND : WIDE	-	オーディオ出力電圧 = 測定
   14	-	FM REC CAL : ON	VR2	オーディオ出力電圧 = 手順13の1/2 (-6dB)	REC CAL レベル調整

   
   
5. AM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	KT-900 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	SELECTOR : AM	-	-
   2	600kHz 60dB	600kHz 受信	L12	R136F〜GND 間電圧 = 最大	OSC トラッキング調整
   3	1400kHz 60dB	1400kHz 受信	TC2
   4	手順2と3を数回繰り返す
   5	600kHz 40dB	600kHz 受信	L11	R136F〜GND 間電圧 = 最大	RF トラッキング調整
   6	1400kHz 40dB	1400kHz 受信	TC1
   7	手順5と6を数回繰り返す
   8	1000kHz 40dB	1000kHz 受信	L13	R136F〜GND 間電圧 = 最大	IF 調整

   
   
6. 調整結果
   
   
   • FM はあちこちズレまくっていました。
     
     
   • FM ステレオセパレーションは 以下となりました。 良好な数値です。
     
     

   項目	IF BAND	L	R	単位
   ステレオセパレーション	WIDE	50	51	dB
   ステレオセパレーション	NARROW	48	50	dB
   パイロット信号キャリアリーク	WIDE	-64	-66	dB
   オーディオ出力レベル偏差 (MONO)		0	-0.14	dB
   REC CAL 信号		457.0		Hz
   		-6.00	-6.14	dB

   
   
   • FM OSC 調整はトリマコンデンサでしか出来なかったので、83MHz で目盛にピッタリ合わせました。
     
     
   • 従って、83MHz 以外では以下のように若干目盛とズレがありますが、この程度は仕様内と思います。
     
     

   受信周波数 (MHz)	目盛 (MHz)	偏差 (MHz)
   76.0	75.9	−0.1
   83.0	83.0	±0.0
   90.0	90.2	＋0.2

   
   

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使ってみました

1. デザインが優れた薄型チューナです
   
   
   • フロントパネルとスイッチ類がプラスチックなのが残念ですが、以下の２点がこれを打ち消して素晴らしい仕上げになっています。
     
     
     • ダイヤルスケール部には本物の強化ガラスが使われています。
       
       
     • チューニングノブは輝きのあるスモークアルマイト処理がされており、直径 41mm の無垢アルミです。
       
       
   • ダイヤルの動きは適度に重く、スムーズです。
     
     
   • ダイヤルスケール部全体がイルミネーション照明されており綺麗です。 ダイヤル指針はオレンジ色の照明です。 これら以外は、グリーン色またはレッド色の表示です。
     
     
2. 機能関連
   
   
   • アナログメータはなく、代わりは LED 表示ですが、こちらのほうが操作し易いように思います
     
     
     • S メータの代わりが 7 レベルの LED バー表示です
       
       
       • この表示が変わっていて２色表示なのです ・・・ こんなの初めて経験しました。 とても良いです。
         
         
       • 電波に感応しているが同調点から離れている時は赤表示、同調点に近付くと緑表示になります。
         
         
       • また、電波レベルが弱い場合は赤表示ままで、この時は [MODE] スイッチを OFF にするとモノラル受信できます。
         
         
     • T メータの代わりが [→ ←] の LED 表示です
       
       
       • 離調している時は [→ ←] のどちらか片方が光り、同調すると両方が光ります。
         
         
       • 完全同調点は [→ ←] の明るさが同じになったところです。
         
         
     • チューニングノブがタッチセンサーになっています
       
       
       • チューニングノブを手で摘んでいる時はチューニングサーボ OFF で、手を離すと ON になって最適同調点に [→ ←] 表示が引き込まれます。
         
         
       • この動作スピードが極めて速く軽快です。 サーボの精度も高いようです。
         
         
   • [MODE] スイッチで「AUTO/MUT」「MONO」を切換えできます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [IF BAND] スイッチで「WIDE/NARROW」に切換できます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [LOCK] スイッチでサーボロック機能を「ON/OFF」に切換できます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [REC CAL] スイッチを ON にするとテストトーンが流れ、録音機のレベル合わせができます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [SELECTOR] スイッチで「FM/AM」バンド切換します。
     
     
3. 感度や音質
   
   
   • FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。 感度も良いです。
     
     
   • AM は高感度で S/N が高いです。
     
     
   • 高性能・高音質でお奨めできるチューナです。 私の評価は ◎ です。
     
     
   • デザイン性や安定度からは、私は上位機種の KT-1000 よりこちらがお奨めです。
     
     

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仕様など

1. ドキュメント
   
   
   • KT-900 取扱説明書
     
     
   • KT-900 Service Manual
     
     
2. 仕様
   
   
   
   
3. 発売時期と定価
   
   

   発売時期	1980年
   定価	49,800円

   
   

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