TRIO KT-900 (2号機) が到着!
2022年5月6日、福岡市早良区の M さんより、
TRIO KT-900
の修理依頼品が到着しました。
この写真は修理&照明 LED 化後です。
程度&動作チェック
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修理依頼者 (M さん) のコメント
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正常動作していたのですが、ステレオ受信しなくなってしまいました。
モノラルでは受信します。
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周波数インジケータランプ (指針) が切れています。
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外観
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フロンパネルにかなりの汚れはあるが、致命的なキズはなく状態は良いほうです。
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ダイヤル面の 90MHz より上の部分に何かのカスのようなものが付着しています。
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[天板] [リアパネル] に汚れや軽いキズはありますが状態は良いほうです。
端子類は綺麗です。
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脚のうち、前側の2個の一部に茶色い変色があります。
見えない部分なので諦めか。
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到着した状態のまま電源 ON してチェック
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ダイヤル指針のランプが切れています。
ダイヤル面照明ランプは切れていません。
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S メータの表示が 赤→緑 に変わらず、ミューティング OFF にしないと音が出ません。
[STEREO] ランプが点灯しない原因でもあります。
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FM フロントに使用している専用ハイブリッド IC は動作しています。
これが故障だと修理不可になります。
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FM OSC 発振に使っているトリマコンデンサが故障しています。
回すと短絡する角度があります。
全然ダメです。
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バリコン軸で接触不良が発生しています。
バリコン軸を見ると緑青錆が出ています。
同調操作するとゴソゴソ雑音が出るのは、これが原因です。
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AM 受信は全く問題ありません。
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その他
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製造シリアル番号は [20700941] です。
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電源コードの製造マーキングは1981年で、内部の IC の製造ロットは1981年です。
従って、本機は1981年製造品でしょう。
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過去に KENWOOD サービスで2回、修理履歴があります。
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1回目:60.5.7 (S60として1985年5月7日)
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2回目:91.11.30 (1991年11月30日)
リペア
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バリコン軸で接触不良
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バリコン軸受に真鍮の板バネが使われています。
ここに緑青錆が出ると接触不良になって、以下の不具合が出ます。
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同調ノブを回すとガサゴソ雑音が出ます。
低い周波数の同調がやり辛くなります。
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バリコン軸受に
エレクトロニッククリーナ
を少量塗布して同調ノブを何度もグルグル回すと、緑青錆が湧き出てきます。
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緑青錆を爪楊枝で丹念に除去します。
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上記の手順1と2を繰り返して緑青錆を完全に除去すると、バリコン軸受の接触不良が直ります。
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最後に錆止めとして
コンタクトグリス
をバリコン軸受けに塗布して完了です。
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FM OSC 発振に使っているトリマコンデンサが故障
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トリマコンデンサを交換するためには、FM フロントエンドユニットをメイン基板から一旦取り外す必要があります。
ところが構造的に大仕事になり、作業でメイン基板を痛める心配もあります。
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そこで、新しいトリマコンデンサを外付けすることにしました。
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フロントエンド内の古いトリマコンデンサを精密ニッパで除去します。
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新しいトリマコンデンサ (10PF) を、豆ラグ板×2枚を使って写真のように、[FM OSC バリコン端子]〜[GND] 間に取り付けます。
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GND は AM OSC バリコンの位置にある未使用の M3 ネジ穴を利用しました。
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ネジは M3 の長さ 2mm を使います。
長さが 3mm 以上だとネジの先が AM OSC バリコンのホット側に接触して壊れます。
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豆ラグ板にハンダを大盛して、トリマコンデンサの取付強度を確保します。
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S メータの表示が 赤→緑 に変わらない
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調査の結果、原因は同調点検出用 IFT の [L4] に内蔵されているコンデンサの容量抜けでした。
完全抜けではなく容量減少です。
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本来は [L4] を交換したいのですが、この部品は入手不可です。
やむを得ないので、外部にコンデンサを追加して容量を補います。
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コンデンサを [L4] の同調部に取り付けます。
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5PF を R24 12kΩ と並列で基板裏側に入れます。
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温度係数 30ppm/℃ の温度補償型積層セラミックコンデンサです。
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直りました!
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放送局に同調すると S メータが緑表示になります。
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ミューティング動作は正常で、[STEREO] ランプも点灯します。
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全ての操作・動作が正常です!!!
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お断り
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やはり、本来は [L4] を交換したほうがよいです。
入手できればね。
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なぜなら、[L4] 内の同調回路に使っている LC は温度係数が逆のものを使って温度補償されているからです。
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今回のコンデンサ外付けによる修理は周囲温度の変化に弱いかもしれません。
夏はよくても冬はダメとか。
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ダイヤル指針のランプ切れ
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今時フィラメントランプ交換はないだろうと、LED 化しました。
元のダイヤル指針の色は橙色で野暮ったいです。
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通常 LED 化するには DC 電源回路を新設しますが、TX-900 では既存の DC 電源回路をそのまま使えます。
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他のインディケータが緑色なので、区別が付いて、かつ、調和のとれる青色にしました。
少し怪しさも出てイイ感じです。
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下の左はダイヤル面に青く光るダイヤル指針、右は LED の取り付け状態です。
この時点ではダイヤル照明ランプの LED 化は未実施のため、周波数表示は暗く野暮ったいです。
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ダイヤル照明の LED 化
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ダイヤル照明のランプ切れはなかったのですが、修理依頼者からのリクエストで LED 化しました。
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実はこの作業はあまりやりたくなかったのが本音
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フロントパネルの完全分解が必要で、[前面ガラス] の取り外しはもちろん、[周波数パネル] まで取り外す必要があります。
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寸法測定して、適合する LED を選択&調達する必要があります。
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電球のようにただ交換という訳にはいかず、LED には指向性があるので取付工作する必要があります。
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LED は DC 駆動する必要があるので、点灯させる回路の設計も必要です。
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組み立てでは、[周波数パネル] の再ボンド接着など、ともかく大変なのです。
手間と時間がかかります。
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寸法測定の結果で、以下の作業としました。
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8mm/3灯型/8000〜17000K/広角140度/50ルーメン の LED がギリギリ実装できました。
色目は超純白色です。
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LED は3灯型 (1つの球の中に3つの LED を内蔵) を使ったので配線の手間が1/3以下になります。
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LED は2個使った (実質、高輝度 LED 6個) ので、最高100ルーメンです。
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100ルーメンは部屋の照明にも使えるほどで、明る過ぎるので電流制限抵抗を入れて大きく減光しています。
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LED の電流は実測 8mA で、定格 (40mA) よりかなり少なく、逆に寿命は5倍以上になります。
一生使えるはず。
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下の左の写真のように、LED はチューニングノブの根元に入れます。
配線前の状態です。
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下の右の回路図は、LED の配線です。
ダイヤル指針の分も含みます。
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消費電力が減ってエコになりました。
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改造前のフィラメントランプの時は 8V×0.15A×2個+8V×0.05A = 2.8W も照明で消費されていました。
しかも暗い。
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LED 化後は実測 0.32W です。
1/10近くに大幅削減できました。
しかも明るい!
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やはり、LED 化すると明るく美しいですね。
最新マシンみたい!
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清掃
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照明 LED 化作業でフロントパネルをバラバラに分解する必要があったので、ついでにフロントパネル内を清掃しました。
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全体は OA クリーナと一部無水アルコールで清掃しました。
ガムテープ後のようなゴミ除去に無水アルコールを使用。
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到着時は薄汚れた感じでしたが、美しくなりました。
再調整
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電圧チェック
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
J83 |
+14V |
+13.5V |
〇 |
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再調整結果
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2nd IF を作り出す 2nd OSC 周波数が大きくズレていました。
これ以外にもズレがありました。
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FM ステレオ時の高調波歪率は 0.06% (1kHz) でした。
かなり良いです。
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FM ステレオセパレーションなどは以下となりました。
良好な数値です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション |
WIDE |
51 |
51 |
dB |
ステレオセパレーション |
NARROW |
52 |
53 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-69 |
-64 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.33 |
dB |
REC CAL 信号 |
452.2 |
Hz |
-6.06 |
-6.06 |
dB |
使ってみました
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デザインが優れた薄型チューナ
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ダイヤルスケール部全体がイルミネーション照明されており綺麗です。
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照明を LED 化した
世界に1台の KT-900
です。
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最前面には強化ガラスが使われています。
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チューニングノブは直径 41mm の無垢アルミ
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輝きのあるスモークアルマイト処理がされています。
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ダイヤル指針の動きは適度に重く、スムーズです。
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チューニングノブがタッチセンサになっています。
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S メータは 7 レベルの LED バー表示
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電波に感応しているが同調点から離れている時は赤表示、同調点に近付くと緑表示になります。
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T メータは [→ ←] の LED 表示
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離調している時は [→ ←] のどちらか片方が光り、同調すると両方が光ります。
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完全同調点は [→ ←] の明るさが同じになったところです。
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フロントパネル枠がプラスチックなのが残念です。
KT-900 製造の頃は非磁性体を使うと音が良くなると信じられており、流行りでした。
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感度や音質
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FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。
別格です。
末永く使っていただきたいと思います。
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AM は高感度で S/N が高いです。