TRiO KT-1100 (4号機) が到着
2023年1月20日、川崎市の Y さんより
TRiO KT-1100
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
が特長のチューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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受信が安定しないのでトリマとか適当にいじってしまい、全く受信できなくなってしまいました。
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外観
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製造シリアル番号は [30600532] で、電源コードの製造マーキングより [1982年製造品] とわかりました。
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純正 AM ループアンテナが添付されていました。
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フロントパネルの最上部で左から1/4くらいの箇所に目立つ当てキズがあります。
ここ以外は問題ないので残念です。
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[MODE] [IF BAND] [FM RF SEL] スイッチなどのプラスチック部分に黄ばみがあります。
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リアパネルは綺麗です。
端子類には輝きが残っています。
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天板は少し汚れはありますが綺麗なほうです。
底板はまあまあ綺麗です。
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電源 ON してチェック
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メータ照明ランプは問題なく点灯します。
フィラメントランプを使っているのはここだけです。
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FM 受信
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周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出ます。
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おそらくバリコン軸が錆びて接触不良になっていると思います。
まずは最初にこれを直さないと他の修理に入れません。
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80.0MHz の放送が 79.4MHz 辺りで受信し、89.7MHz の放送が 88.6MHz 辺りで受信します。
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-0.6〜-1.1MHz の周波数ズレがあるようです。
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[S メータ] は振れますが、振れが小さく、感度低下しています。
[T メータ] はそれなりに動作します。
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受信できても [STEREO] ランプが点灯せず、実際にステレオ音も出ません。
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サーボロック動作はし、[SERVO LOCK] ランプも点灯します。
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[FM REC CAL] ボタン ON で、テスト音は出ます。
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AM 受信
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動作は概ね良好ですが、感度が落ちている感じがします。
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カバーを開けてチェック
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バリコンギア機構のプーリー軸が外れかかっています。
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プーリー軸を押し込むと直りますが、使っているうちにまた外れてきます。
さて、どうしようか ・・・
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基板は綺麗で、目視では電解コンデンサなどの部品にも異常はないように見えます。
リペア
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FM の周波数の低い辺りで指針を動かすとゴソゴソという雑音が出る
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原因はバリコン軸の接触不良です。
以下のようにバリコン軸の接触回復作業をしました。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
コンタクトグリース
を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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FM で -0.6〜-1.1MHz の周波数ズレがある
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原因は2つあって、1つは [OSC トラッキング調整ズレ]、もう1つは [プーリー軸が外れかかっている] です。
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[プーリー軸が外れかかっている] については後述します。
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[OSC トラッキング調整ズレ] の修理
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左の写真は FM フロントエンドの OSC の部分です。
OSC トラッキング調整は赤〇で囲んだトリマコンデンサで調整します。
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OSC トリマコンデンサを調整してみましたが、回転摩擦が軽過ぎで、調整しても振動を与えると簡単にズレます。
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このトリマコンデンサは故障しています。
ところが、構造上、交換は大仕事になります。
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そこで右の写真のように、既設のトリマコンデンサは除去し、新たに 10pF のトリマコンデンサを外付けしました。
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交換後に再調整してバッチリ直りました。
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FM で感度低下している
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原因は [RF トラックング調整ズレ] です。
再調整でみるみる感度が上がって直りました。
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FM で [STEREO] ランプが点灯しない
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原因は [MPX VCO 調整ズレ] です。
再調整で直りました。
音にステレオ感も出るようになりました。
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AM で感度低下している
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主な原因は [RF トラックング調整ズレ] です。
再調整で大きく感度が上がって直りました。
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プーリー軸が外れかかっている
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右の写真の矢印で示した先に隙間が見えますが、ここは隙間がないのが正しいです。
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カバーを開けた直後はこの隙間が 5mm 以上になっており、軸が脱落寸前でした。
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古いチューナはこの故障が実に多いです。
瞬間接着剤で固定していたのだろうか?
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修理はメーカの Alps しかできないと思いますが、対応していません。
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別の対策を考えてみます。
要はプーリー軸を右側から押さえ込めばよいのです。
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プーリーの右側にくるのは天板カバーの側面です。
プーリー軸先端はプーリーより飛び出しています。
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この調査結果より、[天板カバーの側面]〜[プーリー軸先端] の間に何らかの板を入れてやれば、常にプーリー軸を押さえ込めるはず。
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[天板カバーの側面]〜[プーリー軸先端] の隙間を計測すると 7.5mm でした。
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挿入する押さえ込み板の厚みは 7.0mm がベストとわかりました。
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計測誤差や接着剤の厚みを考慮すると、6.5〜7.0mm くらいです。
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押さえ込み板の材質は [経年変化しない] [表面がツルツルでプーリー軸が当たっても摩擦が少ない] からアクリル板とします。
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アクリル板の標準品の厚みは 1/1.5/2/3/4/5/6/8/10/13/15/20mm となっており、7mm はないです。
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そこで、[50×50×5mm] [50×50×2mm] [50×50×1.5mm] のアクリル板を2枚張り合わせて 6.5〜7.0mm 厚を実現します。
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アクリル板は自分でも加工できますが、週に3台くらいの修理依頼チューナの作業で加工時間がとれません。
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自分で加工している時間がないので、アクリル材専門業者に特注しました。
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業者発注なので1枚という訳にいかず、それぞれの厚みのものを35枚ずつ発注しました。
合計で100枚を超えるようにした。
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注文して3日で届いたので、早速、取り付けました。
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アクリル板は実験の結果、[5mm] [2mm] 厚の貼り合わせ、すなわち 7mm 厚が正解でした。
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接着剤には [コニシ G17] を使いました。
やや黄色のいわゆるボンドです。
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左の写真はボンド接着中で、右の写真は完成後です。
2枚貼り合わせとわからないです。
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完成後、カバー取り付け、期待通りにプーリー外れを防げ、同調ノブの動きもスムーズなことを確認しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q19-E |
+13V |
+13.3V |
〇 |
Q20-E |
-13V |
-12.9V |
〇 |
Q23-E |
+7V |
+6.98V |
〇 |
Q24-E |
-7V |
-6.93V |
〇 |
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調整結果
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KT-1100 (1号機)
に記載の手順で調整しました。
あちこちズレていましたが、全て再調整しました。
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FM ステレオセパレーションなどは以下の通りで、良好です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
64 |
66 |
dB |
NARROW |
26 |
30 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.009 |
% |
stereo |
0.01 |
% |
NARROW |
mono |
0.26 |
% |
stereo |
0.31 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-88 |
-87 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.03 |
dB |
FM REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.0 |
-6.0 |
dB |
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AM は添付の純正ループアンテナで調整しました。
感度低下していましたが、再調整で大きく感度が上がりました。
使ってみました
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非常にスッキリしたデザイン
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写真より実際に見た時のほうが高級感あります。
デザインが巧妙です。
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奥行は 337mm しかなく設置が楽です。
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フロントパネルはアルミヘアライン仕上げです。
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チューニングノブは直径 46mm の無垢アルミです。
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ダイヤルスケールは正面を向いており照明はありません。
ダイヤル指針が赤い LED 表示で見易く精密感があります。
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感度や音質
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FM は TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度はかなり良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。別格です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
WIDE/NARROW 切り換えが有効で、WIDE 時はかなり高音が出て高音質です。