TRIO KT-1000 (2号機) が到着
2022年12月9日、新潟県柏崎市の S さんより
TRIO KT-1000
の修理依頼品が届きました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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新品で購入したトリオ KT-1000 (S/N 20311296) を最近10年近く使用していませんでした。
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今夏、再びオーディオ生活の再開に伴い使ってみたところ、FM がうまく受信できません。
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周波数ズレがあり、例えば 77.5MHz の放送が 76MHz 以下で受信します。
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辛うじて FM を受信できても感度が悪いです。
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REC CAL の信号が出力されません。
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AM はチェックしていません。
改造等は行っていません。
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外観
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製造シリアル番号は [20311296] です。
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パッと見は綺麗ですが、近づくとキズやスレがあるのがわかりますが、致命的ではないです。
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ダイヤルスケール内に何やら大きな茶色のゴミが見えます。
細かいゴミも溜まっています。
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天板に少しキズがあります。
側板は綺麗です。
側板を留めているネジにサビがあります。
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電源 ON してチェック
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ランプ切れはありません。
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周波数ズレがあります。
80MHz の放送が 76.7MHz で受信されます。
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[STEREO] ランプが点灯せず、音もモノラルでしか出ていません。
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音はステレオではないのですが、それなりに良音が出ています。
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[LOCK] スイッチ ON では T メータの振れかたがぎこちないです。
タッチセンサの感度が低下しています。
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[FM REC CAL] スイッチを ON にしてもテスト音が出ません。
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AM は周波数ズレしていますが、正常に受信できます。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号より [1981年製造品] とわかりました。
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ややゴミが堆積していますが、基板などは綺麗な状態です。
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右の写真は FM フロントエンドの OSC の部分です。
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写真の中央に写っているのが OSC トリマコンデンサです。
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周波数ズレを簡易補正しようと、このトリマコンデンサを回してみましたが、全く受信周波数が変化しません。
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OSC トリマコンデンサは完全に故障しています。
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まずは交換しないと OSC トラッキング調整ができません。
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下の写真左はカバーを開けて見えるダイヤル指針の後ろ側です。
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写真左を見て判るように糸掛けダイヤル機構の糸が指針から脱落しています。
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正しくは、糸が指針のプラスチックの後ろに乗っていなければなりません。
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近くを見ると写真右の糸を留めるプラスチックの割れたカケラが転がっていました。
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写真左を見て判るようにランプからの電線は束線バンドで糸に括り付けられています。
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そうです。
今までは束線バンドが指針を引っ張っていたのです。
悲惨な状況です。
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この状況も周波数ズレの物理的な要因の1つです。
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バリコン軸のアース接触部分に青緑錆が出ています。
これも周波数ズレの電気的な要因の1つです。
リペア
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OSC トリマコンデンサが完全故障している
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トリマコンデンサを交換するためには、FM フロントエンドユニットをメイン基板から一旦取り外す必要があります。
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ところが構造的に大仕事になりそうです。
作業でメイン基板を痛める心配もあります。
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代わりに写真のように、外付けで新しいトリマコンデンサをバリコンの活栓側とグランドに取り付けました。
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トリマコンデンサにはホット側とコールド側があるので、コールド側が GND になるようにします。
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フロントエンド基板に乗っていた古いトリマコンデンサはペンチで破壊して除去しました。
写真右です。
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この対策で、無事 OSC トラッキング調整可能になりました。
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指針プラスチックが割れて糸掛けダイヤル機構の糸が指針から脱落している
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この指針プラスチックは入手不可だし、どうしようか悩みました。
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結果、右の写真のように黒い三角プラスチック片を瞬間接着剤で指針プラスチックに貼り付けました。
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そして糸をガイド溝と黒い三角プラスチック片を通るようにしました。
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指針はスムーズに動き、移動範囲制限内に収まりました。
成功です!!!
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[REC CAL] スイッチを ON にしてもテスト音が出ない
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調査の結果、原因は IC3 TR7020 の故障でした。
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この IC の中に CAL TONE 発振器が内蔵されています。
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まずは IC3 を IC ソケット化してから TR7020 を交換して直りました。
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タッチセンサの感度が低下している
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[LOCK] スイッチが ON の時にタッチセンサが有効になります。
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同調ノブに手を触れると Servo Lock OFF、手を離すと ON になります。
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本機はタッチセンサの感度が低下しており、同調ノブに手を触れても Servo Lock OFF になりにくいのです。
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右の回路図はタッチセンサの部分です。
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調べたところ、Q4 2SC828A トランジスタが劣化していました。
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Q4 を 2SC1815GR に交換して直りました。
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バリコン軸の接触不良回復
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本機は41年物ビンテージ (2022年現在) です。
バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに コンタクトグリース を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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ダイヤルスケール内に何やら大きな茶色のゴミがある
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最前面の保護ガラスを外して [茶色のゴミ] を取り除きました。
[茶色のゴミ] は紙状のような軽いゴミでした。
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保護ガラスから内側にあった埃は清掃しました。
保護ガラスそのものも汚れており、中性洗剤で水洗して綺麗になりました。
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以下の現象は再調整で直りました
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周波数ズレ ・・・ 上記の1と2の修理後に再調整を実施しました。
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[STEREO] ランプが点灯しない
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感度低下
再調整
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電圧チェック (VP)
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測定結果は以下です。
良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
R260 (100Ω) 左側 |
+14V |
+13.4V |
〇 |
R261 (100Ω) 左側 |
-14V |
-13.5V |
〇 |
D25 左側 |
+9V |
+8.97V |
〇 |
D24 左側 |
-9V |
-9.09V |
〇 |
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調整結果
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TRIO KT-1000 (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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再調整前はステレオセパレーションが 30dB 程度しかありませんでしたが、下のように大きく改善しました。
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再調整前は高調波歪率が 0.2% 程度でしたが、下のように大きく改善しました。
0.005% は超素晴らしい数値!!!
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再調整前はパイロット信号キャリアリークが -50dB 程度でしたが、下のように大きく改善しました。
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その他もすごく良好な数値です。
項目 |
IF BAND |
MONO/STEREO |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
STEREO |
65 |
55 |
dB |
NARROW |
55 |
54 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
MONO |
0.005 |
% |
STEREO |
0.005 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
STEREO |
-92 |
-92 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
MONO |
0 |
+0.03 |
dB |
FM REC CAL 信号 |
WIDE |
MONO |
398.4 |
Hz |
-6.0 |
-6.0 |
dB |
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放送電波の周波数と、指針が指す周波数は以下となりました。
±0.2MHz 以内なのでスペック内と思います。
電波の周波数 (MHz) |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
84 |
85 |
86 |
87 |
88 |
89 |
90 |
指針の周波数 (MHz) |
76.1 |
77.1 |
78.1 |
79.1 |
80.1 |
81.1 |
82.1 |
83.0 |
84.0 |
84.9 |
85.9 |
86.8 |
87.8 |
88.8 |
89.8 |
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AM ではトラッキング調整が大きくズレていましたが、再調整で直りました。
使ってみました
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今回の修理は疲れました
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あちこち同時故障しているので、何が悪さしているかの見極めに時間がかかりました。
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何とか全て直せてよかったです。
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おそらく、
KT-1000 で最高の性能
に復活したと思います。
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感度や音質
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FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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特に今回の個体は 0.005% という驚異的な高調波歪率に調整できたので、ビックリするほど音が良いです。
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AM は高感度で S/N が高いです。
WIDE 時は高音の伸びた良い音が出ます。