Pioneer F-777 (2号機) が到着
2022年5月13日、愛知県豊田市の F さんより
Pioneer F-777
の修理依頼品が送られてきました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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経年ズレと思われ以前より感度が落ちて (S メータの振れが悪くなって) 来ています。
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以前は 62dBμV 程度だったのが 55dB 程度になっています。
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電源投入後徐々に S メータの読みが上昇し、最終的に 58dB 程度になります。
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受信メモリのバックアップ電池が劣化して、コンセントを抜くとメモリがクリアされてしまいます。
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AM ループアンテナは欠品状態で入手したので代わりに使っていたものを同梱しました。
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正しく調整できる範囲であればこのアンテナで調整してください。
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外観
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製造シリアル番号は [OM1003365S] で、電源コードの製造マーキングより1994年製と判明しました。
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フロントパネルは綺麗ですが、気にならないごく僅かな薄い線キズがあります。
全体に汚れがあります。
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左右にあるサイド飾り板は綺麗で問題ありません。
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ディスプレイの透明板は綺麗です。
キズやスレがありません。
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天板はほぼ綺麗ですが、の左の折り返し部に少しキズがあります。
上部にもポチッとした僅かなスレがあります。
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リアパネルは綺麗です。
端子類にごく薄いサビはありますが、問題ありません。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、ボタンやチューニングノブ操作はできます。
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ボタンの一番下の列は機械的に動きが固いです。
フロントパネル基板のタクトスイッチとボタンの中心がズレている?
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チューニングノブをゆっくり回すと周波数変化が正常ですが、早く回すと周波数が戻ったりします。
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ディスプレイは綺麗で輝度も新品同様ですが、内部が少し曇っています。
煤のようなゴミが溜まっているようです。
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プリセットしてみると直後は記憶が保たれていますが、電源コードを抜いて30分後に入れるとプリセットが消えていました。
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プリセットメモリのバックアップ用電気二重層コンデンサが完全に故障しているようです。
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僅かな時間バックアップできるのは、並列に入っている電解コンデンサのためと思います。
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FM 受信
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問題なく受信でき、ステレオにもなり、音も良いです。
オートチューニング動作も良好です。
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SSG より 70dB の標準 FM 信号を入力してみると、[NORMAL 59dB] [SUPER NARROW 65dB] を表示しました。
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この時点の FM 性能測定をしました。
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ステレオでの高調波歪率 (1kHz) は [NORMAL 0.29%] [SUPER NARROW 0.37%] で、この機種としては悪いです。
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L ch. に比べて R.ch のセパレーションが悪いですが、ステレオ感を感じる程度です。
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[NORMAL] より [SUPER NARROW] のほうがセパレーションは良いようです。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
NORMAL |
46 |
38 |
dB |
SUPER NARROW |
53 |
41 |
dB |
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AM 受信
リペア
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ボタンの一番下の列は機械的に動きが固い
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フロントパネルを分解してフロントパネル基板を外し、清掃してから再組立したら直りました。
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壊れている箇所はなかったので、積年のタワミだったのだと思います。
プラスチックも時間が経つと微妙に変形しますから。
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チューニングノブを回しての周波数変化がやや不調
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ロータリエンコーダ内部の接点の劣化です。
エレクトロニッククリーナ
で酸化膜を除去して直りました。
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ついでに、前タクトスイッチの接点もエレクトロニッククリーナで酸化膜を除去しました。
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ディスプレイ内部が曇っている
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フロントエンドを分解して調べると、やはり煤のようなゴミが溜まってしました。
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清掃してゴミを除去したら、クッキリ・ハッキリの表示になりました。
新品時の表示状態に回復しました。
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プリセットメモリのバックアップ用電気二重層コンデンサが完全に故障している
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C808 の電気二重層コンデンサを [0.047F/5.5V]→[1F/5.5V] に交換しました。
取付スペースが僅かなので、縦型を使いました。
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右の写真は、元付いていた電気二重層コンデンサです。
大きさは 9.5×10.5×4.5mm で四角いです。
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F-777 取扱説明書には、[バックアップ保持は1ヶ月] と記載されています。
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今回の交換で電気二重層コンデンサの容量は20倍になったので、理論上は20ヶ月バックアップ保持できることになります。
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でもこれは机上の計算で、実際には数ヶ月でしょう。
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リアパネルの端子類とメイン基板のハンダ付け部分にクラックが発生している
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これはメイン基板を取り外した時に発見しました。
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特にオーディオ端子 (RCA) に肉眼でハッキリわかるハンダクラックがありました。
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全端子のリードを補修ハンダ付けして直りました。
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感度が落ちている
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次項の [再調整] で直りました。
主に FM フロントエンドでトッラキングズレがありました。
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再調整前の表示で比べと以下のようにハッキリ改善しました。
感度が 9dB 上がりました。
SSG 出力 |
調整前 |
調整後 |
NORMAL |
SUPER NARROW |
NORMAL |
SUPER NARROW |
83MHz 変調:OFF 出力:70dB |
59dB |
65dB |
68dB |
74dB |
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なお、この数値は感度の変化を客観的にみるために S メータ校正 (調整) 前に取得したものです。
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最終的には S メータ校正して、IF BAND=NORMAL の時に 70dB 入力でピッタリ 70dB 表示になるよう調整しています。
再調整
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電圧チェックの結果は良好です
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
TP703 |
+13V |
+13.0V |
〇 |
TP709 |
+26V |
+23.7V |
〇 |
TP801 |
+5V |
+4.97V |
〇 |
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調整結果 (FM)
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特に問題なく良好です。
ステレオセパレーションは到着時より大きく改善しています。
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ステレオでの高調波歪率 (1kHz) も [NORMAL 0.07%] [SUPER NARROW 0.22%] と大きく改善しました。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
NORMAL |
58 |
62 |
dB |
SUPER NARROW |
49 |
42 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
NORMAL |
-70 |
-67 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.01 |
dB |
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F-777 のレベル表示は以下のように NORMAL をベースに校正しています。
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SUPER NARROW の数値が大きいのは、これを調整するボリュームが無いからです。
特に支障ないはず。
SSG 出力 |
IF BAND |
NORMAL |
SUPER NARROW |
83MHz 変調:OFF 出力:75dB |
75dB |
82dB |
83MHz 変調:OFF 出力:45dB |
45dB |
48dB |
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AM は同梱されていたループアンテナで最高感度になるよう調整しました
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AM の場合、ループアンテナも同調回路として機能するので、使うループアンテナに合った調整が必要です。
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思った通り、同梱されたアンテナでは大きく同調がズレており、調整で感度が5倍くらい上がりました。
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同梱されていたループアンテナ用に完全チューニングしたので、これ以外のものを使うと感度が悪くなります。
使ってみました
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デザイン
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フロントパネルはゴールドのヘアライン処理アルミで好みです。
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チューニングノブはアルミ材で質感が良いです。
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サイド飾りがあって、高級感をやや醸し出しています。
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FM 受信
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感度も妨害電波排除能力も問題ありません。
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クォードラチュア検波特有のソフトな音ですが、十分な高音質です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。
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音質はかなり良いです。
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F-777 の真価は FM 受信よりむしろ AM 受信性能かもしれないです。