KENWOOD L-02T (2号機) が到着
2022年12月24日、岡山県総社市の A さんより
KENWOOD L-02T
の修理依頼品が到着しました。
サンタのプレゼントじゃないよ。
定価30万円の超高級チューナ
です。
この写真は照明を LED 化した後です。
状態チェック
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修理依頼者のコメント
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一応問題なく動作しているようです。
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古いもののため、本来の性能が出るように点検・調整してほしい。
ランプ類を LED 化してほしい。
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外観
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並みの中古状態で、キズなどはありますが、全体的には綺麗なほうです。
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端子類には輝きが残っており、状態は良好です。
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電源 ON してチェック
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ランプ切れはありません。
ダイヤル指針とメータ照明だけがフィラメントランプで、それ以外は LED です。
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ダイヤル指針が非常に見えにくいです。
指針ランプに問題がありそうです。
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全てのスイッチ、ボタン、ボリュームは正常です。
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ダイヤル指針の動きに大きなガタがあって、何かおかしいです。
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通常、[TUNING] ノブを時計回し/反時計回しに同調させた時の周波数表示は若干は違います。
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ところが、下のように本機ではこの差が大き過ぎるのです。
電波周波数 (MHz) |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
84 |
85 |
86 |
87 |
88 |
89 |
90 |
時計回しでの 指針周波数 (MHz) |
76.10 |
77.15 |
78.25 |
79.25 |
80.25 |
81.16 |
82.25 |
83.25 |
84.20 |
85.23 |
86.23 |
87.25 |
88.28 |
89.30 |
90.25 |
反時計回しでの 指針周波数 (MHz) |
75.95 |
77.00 |
78.00 |
79.05 |
80.03 |
81.00 |
82.10 |
83.05 |
84.00 |
85.03 |
86.03 |
87.07 |
88.10 |
89.13 |
90.08 |
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問題なく受信できます。
ステレオにもなります。
高級機らしい良音が出ています。
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[REC CAL] スイッチ ON で録音用テストトーンが正常に出ます。
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到着時の状態のまま特性を計測してみました。
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ステレオセパレーションなどが大きく低下しています。
ラジカセ並みです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
27 |
29 |
dB |
NARROW |
31 |
33 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.03 |
% |
stereo |
0.03 |
% |
NARROW |
mono |
0.14 |
% |
stereo |
0.13 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-55 |
-54 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.11 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-0.17 |
-0.18 |
dB |
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カバーを開けてチェック
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IC のロット番号より、本機は [1983年製造品] と判明しました。
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リアパネルの裏側に KENWOOD サービスのシールが貼ってありました。
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1987年1月19日に KENWOOD サービスで修理しています。
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[底板を留めるネジ×2本] [側板を上から留めるネジ×2本] が欠品しています。
既に誰かがいじくっているようです。
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割とマシな外観に比べ、内部はそう綺麗ではありません。
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筐体のあちこちにサビが出ています。
ネジ類にもサビが出ています。
とりあえずは使用には問題はなさそうです。
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各基板は少し汚れていますが、目視上は問題なさそうです。
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ダイヤル指針の動きがおかしい原因がわかりました。
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バリコンギア機構の軸が写真のように外れかかっているのです。
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赤い〇で囲んだ箇所の隙間がないのが正しいです。
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プーリーが側板に当ったことで、軸の脱落を防いでいる状態です。
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どう直そうか悩みます。
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[MPX & オーディオ] 基板の半固定抵抗器が交換されています。
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WIDE セパレーション調整用の [VR8] [VR10] です。
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交換するのは構わないが、ちゃんと調整されているのかな?
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所々グレードの高いオーディオ電解コンデンサに交換されています。
リペア
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バリコンギア機構の軸が外れかかって、指針の動きがおかしい
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おそらく、軸外れ防止の [C リング] か [E リング] が外れたと思います。
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どこかに落ちていないかと探してみましたがありませんでした。
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本機は独立した側板となっています。
今まではプーリーが側板に当たって軸の脱落を防いでいました。
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そうであれば、側板とプーリーの間に厚みのある板を挿入すれば、軸を正しい位置に保てそう。
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このヒラメキで対策しました。
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[側板]〜[プーリー] の間隔を測定すると 5.5mm でした。
挿入する板の厚みは 5mm でよさそうです。
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ホームセンタで 5mm 厚のアクリル板の端材を調達しました。
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アクリルを選んだのは表面がツルツルで、プーリーが当たっても摩擦が少なそうと思ったからです。
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プーリーは全体が平らではなくて、中央部が少し盛り上がっています。
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従って、アクリル板に当たるのは中央部の直径 2cm くらいの部分だけです。
摩擦はごく一部だけなので好都合。
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左の写真はボンドでアクリル板接着中、右の写真は完成後です。
ピカッと光って美しい。
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見事に直りました!!!
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もう指針の動きはバッチリです。
時計回し/反時計回しの同調指針誤差は 0.05MHz 以内に収まりました。
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照明を LED 化
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LED 化が必要なのは [ダイヤル指針] [S メータ] [T メータ] [D メータ] です。
これ以外は元々 LED 表示です。
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現状のフィラメントランプの回路は以下です。
サービスマニュアルの回路図にないので調査してみた。
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本来は以下の回路で合っているはずですが、本機は既に誰かがランプ交換していました。
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以下のランプ1個あたり、麦球×2個の直列に交換されていました。
だから暗い。
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更に作業が雑で、メータ類の封印テープも貼られていないです。
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以下の LED 化回路に変更しました。
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[電源基板] の D11 カソードには +15V が出ているので、これを LED 電源にしました。
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ここは LED や輸出用のデジタル表示用の電源なので、余裕があります。
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オリジナルのフィラメントランプの電源もここの AC 側なので、同じ系統でした。
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ダイヤル指針には超高輝度 25000mcd の 3mm 白色 LED を使いました。
5.6mA 流しています。
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メータ照明には広角照射が必要なので、白色 9灯 LED モジュールを使いました。
メータ用全部で 17mA 流しています。
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この回路での消費電力は 15V×(5.6+17)mA=0.3W ほどです。
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フィラメントランプの時は 12V×0.3A×4個=14.4W だったので、14W 分エコになりました。
しかも明るいです。
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下の写真のように野暮ったい黄昏の電球色から明るく現代的な白色に変わりました。
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メータの数字は設計者は本来望んだであろう、綺麗な薄緑っぽい表示になりました。
やはり白色が正解です。
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見辛かったダイヤル指針は、明るい部屋の中でもハッキリ見えるようになりました。
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誰かがやった雑な作業も全部手直ししました。
配線は高級な耐熱電線に張り替えました。
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メータカバーの封印には高級な耐熱ポリイミドテープを使いました。
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耐熱ポリイミドテープはセロテープやビニルテーブのように劣化することはありません。
260℃でも大丈夫です。
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写真のメータの部分で黄色に見えている部分が耐熱ポリイミドテープです。
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バリコン軸の接触不良回復
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本機は39年物ビンテージ (2022年現在) です。 バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに コンタクトグリース を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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[底板を留めるネジ×2本] [側板を上から留めるネジ×2本] が欠品している
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手持ちの同じスペックのネジ×4本を使って補充しました。
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ステレオセパレーションなどが大きく低下してラジカセ並み
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
電源基板 |
15pin |
+14V |
+14.4V |
〇 |
FRONT END |
18pin |
-15.5V |
-14.2V |
〇 |
IF |
20pin |
+14V |
+14.6V |
〇 |
CN1 |
1pin |
-8V |
-8.08V |
〇 |
CONTROL |
2pin |
+8V |
+8.00V |
〇 |
CN2 |
2pin |
+15V |
+15.2V |
〇 |
MPX COMPOSITE (非安定) |
3pin |
-15V |
-15.8V |
〇 |
CN3 |
3pin |
+15V |
+15.4V |
〇 |
MPX R (非安定) |
4pin |
-15V |
-15.0V |
〇 |
CN4 |
1pin |
+12V |
+12.0V |
〇 |
RELAY |
3pin |
+8.5V |
+8.55V |
〇 |
LED |
4pin |
+7.4V |
+7.36V |
〇 |
POWER MUTE |
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調整結果
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L-02T (1号機)
に記載の手順で再調整しました。
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再調整作業で気が付いたのですが、FM フロントエンドの L5 コアが割れていました。
コアを交換しました。
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高級機に相応しい優秀な数値です。
全ての数値が作業前より大幅アップしました。
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REC CAL 信号の数値が作業前と大きく変わっていますが、作業前の数値は誰かさんの調整誤りです。
こちらの調整値が正しいです。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
70 |
61 |
dB |
NARROW |
48 |
49 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.01 |
% |
stereo |
0.01 |
% |
NARROW |
mono |
0.05 |
% |
stereo |
0.05 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-76 |
-81 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.10 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.3 |
-6.3 |
dB |
使ってみました
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終わってみて
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当初は [使えているが念のため調整してほしい] とのことで、楽勝に考えていましたが、全然違いました。
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使っている人が気付いていないのでやむを得ないのかな?
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誰かがやった雑な作業をやり直すなど、大変でした。
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しかも
巨大で重い!!!
体力的にも疲れました。
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でも作業を全部終わると素晴らしい音。
癒されました。
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感度や音質
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流石に良い音
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
放送スタジオに居るかのようなリアルな音にハッとします。
-
KENWOOD の最高峰チューナ
に間違いないです!