KENWOOD KT-V990 (4号機) が到着
2022年6月8日、川崎市の S さんより
KENWOOD KT-V990
の寄贈品が届きました。
S さんの自家配送です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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0.1MHz ズレていますが受信は出来ます。
温まるとステレオ状態が安定しなくなるみたいです。
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外観
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製造シリアル番号は [71100651] で、電源コードの製造マーキングより [1987年製造品] とわかりました。
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ほぼキズがスレがない超綺麗な逸品です。
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天板のビニコート鉄板がややネチャネチャしています。
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リアパネルの端子に粘っこい樹脂のようなものが付着しています。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入りました。
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ディスプレイに劣化は全くなく、新品同様の輝きです。
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ボタン操作は正常です。
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FM 受信
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-0.15MHz ほど周波数ズレしています。
80MHz の放送が 79.8MHz または 79.9MHz で受信します。
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周波数ズレのままステレオで受信できます。
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右チャンネルから音が出ません。
左チャンネルは音が出ています。
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[CAL TONE] のテスト信号音も右チャンネルからは出ません。
左チャンネルからは音が出ます。
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AM 受信
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受信できまましたが、右チャンネルから音が出ません。
左チャンネルは音が出ています。
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TV 受信
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もう地上アナログテレビは消滅したので、チェックしていません。
リペア
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右チャンネルから音が出ない
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下の左の回路図はオーディオ出力周辺です。
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普通はミューティング用の [Q52] 辺りを疑いますが、これは正常でした。
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[C153] 両端が 50kΩ くらいに対し、[C154] 両端は 300Ωしかありません。
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更に調べると [L34] の故障とわかりました。
[C154] の故障ではありませんでした。
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[L34] には下の右のような回路が2つ入っています。
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左の回路図にある [L34] と向きを合わせてあるので、わかりやすいと思います。
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回路構成としては BSF (Band Stop Filter) です。
19kHz パイロット信号成分だけを減衰させます。
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[L34] にある R-ch. の [C2] がレアショートして数10Ωになっていました。
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[C2] にはチタコンが使われており、湿度が高い環境で使用すると
マイグレーション
が発生しやすいです。
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マイグレーションとは金属カビのようなもので、電極間をショートさせます。
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こうなると、[L34] を交換したいのですが、調達不可能です。
製造後35年以上経ってるしね。
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そこで、[C2] を交換して修理することにしました。
[C2] を取り外して外部に同等コンデンサを取り付けます。
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故障している [C2] は下の左の写真で赤〇で囲んだチタコンです。
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R-ch. の [C2] は故障しているので、L-ch. の [C2] を測定すると 1980PF でした。
おそらく、標準値は 2000PF だろう
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ステレオなので、R-ch. だけ交換という訳にもいかず、L-ch. 用の黄〇で囲んだチタコンも一緒に外しました。
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[L34] を再度基板に実装し、1000PF×2=2000PF/ch. を [C2] の位置に右の写真のように基板裏に 取り付けました。
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2000PF というのは標準品にはなく、近いのは 2200PF ですが、実測値より 10% も違うと心配です。
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それで 1000PF×2個 をパラ接続で使いました。
J 級なので、誤差は 5% 以内です。
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KT-V990 を組み立ててチェック ・・・
見事!直りました!!!
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右チャンネルからも左チャンネルからも良好な音がでます。
左右から音が出るチューナはイイね!
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FM で同調ズレしている
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[温まるとステレオ状態が安定しなくなる] の原因でもあるでしょう。
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同調検出用の [L9] を調整して直りました。
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天板のビニコート鉄板がややネチャネチャしている/リアパネルの端子に粘っこい樹脂のようなものが付着している
再調整
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KT-V990 (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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FM 受信
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今回 [L34] のコンデンサを交換したので、この部分も再調整しました。
19kHz キャリアリーク調整です。
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ちゃんと調整できたことより、[L34] の修理が正しかったことが確認できました。
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フロントエンドの調整ズレが大きく、再調整で S メータレベルで1.5倍感度が上がりました。
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ステレオセパレーションも大きく落ち込んでいましたが、再調整で大幅向上しました。
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NARROW でかなり悪化しますが、これは NARROW 用セパレーション調整ボリュームがないためです。
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以下のように素晴らしい特性です。
音も素晴らしく良いです。
やはり KT-V990 は
隠れた名器
です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
69 |
68 |
dB |
NARROW |
25 |
25 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-80 |
-83 |
dB |
高調波歪率 (MONO) |
0.009 |
% |
高調波歪率 (STEREO) |
0.009 |
0.009 |
% |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.03 |
dB |
REC CAL 信号 (MONO) |
375.0 |
Hz |
-8.8 |
-8.8 |
dB |
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AM 受信
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受信周波数が高いほうでトラッキングがややズレていた以外、特に問題はありませんでした。
使ってみました
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デザイン
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フロントパネルは厚いヘヤラインアルミ材が使われ質感があります。
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ボタン類がうまく整理されており、スッキリ感があります。
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感度や音質
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FM の感度は良いです。
高音域がシャッキとした音質で、
ハッとするような素晴らしくクリアな音
です。
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AM の感度や音は普通です。
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総評
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リファレンス機としても使えるほどの性能を持った FM チューナで、カチッとした硬派のデザインもイイ!
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KT-V990 の [PLL 検波] は優秀
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[パルスカウント検波] の音は非常に良いのですが、これは電波状態がかなり良いという条件が必要です。
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[PLL 検波] は電波状態が良いと高音質、電波が弱くてもそれなりに良音が出ます。
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この違いは、[パルカウント検波] にないフィードバック制御を持っている [PLL 検波] の特長でしょう。