KENWOOD KT-880F (2号機) が到着
2023年5月9日、千葉県松戸市の O さんより
KENWOOD KT-880F
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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FM 受信で以下の不具合がある。
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オートチューニングするとサーチが止まらない。
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3段ある信号強度表示の右側表示のみ表示。
(マニュアル受信で確認)
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Stereo ランプが点灯しない。
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AM 受信はアンテナが無いのでノーチェックです。
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電源を抜くと選局がメモリーされない。
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画面表示やスイッチに問題はなさそうです。
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FM は CATV 経由での受信です。
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外観
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製造シリアル番号は [6YK01654] で、電源コードに製造マーキングが見当たらずここからは製造年は判明しませんでした。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
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フロントパネルには小さいキズと汚れがありますが、パッと見は綺麗です。
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リアパネルに汚れはありますが問題はないです。
端子類に白いサビが出ています。
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天板に汚れはありますが変形などの致命的な損傷はないです。
底板は綺麗です。
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電源 ON してチェック
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問題なく電源が入り、FL 表示器の輝度は新品同様です。
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[POWER] スイッチの動きが悪く、どこかに引っかかるような感じがあります。
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ボタン操作は問題なくできますが [TUNING MODE] ボタンなどにチャタリングがあります。
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タクトスイッチが劣化しているようです。
使えないことはないです。
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FM 受信
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大きく感度低下しており、70dB 程度の電波を入れても S メータレベルは1です。
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T メータ表示は常に右側のままで、同調点ズレしています。
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なんとか放送はマニュアルで受信できますが、[STEREO] 表示が出ません。
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AM 受信
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純正 AM ループアンテナの添付がなかったので、手持ちのループアンテナでチェックしました。
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問題なく受信できました。
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放送局の周波数をプリセットしても AC 電源プラグを抜くと一瞬でプリセットが消えます。
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カバーを開けてチェック
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IC のロット番号より、本機は [1986年製造品] と判明しました。
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基板に目視でわかる部品の劣化は見当たらず、状態は良いです。
リペア
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FM で T メータ表示は常に右側のままで、同調点ズレしている
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原因は同調点を検出する L9 (IFT) の故障です。
内蔵チタコンの容量抜けです。
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L9 を基板から取り外し、内蔵チタコンを除去してから基板に戻しました。
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チタコンの代わりに 100pF 温度補償 (30ppm/℃) 積層セラミックコンデンサを外付けして直りました。
(右の写真)
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仮調整して T メータ動作が正常になったことを確認しました。
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FM で大きく感度低下している
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FM フロントエンドの調整ズレが原因です。
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FM フロントエンドを再調整して直りました。
我が家の 70dB 程度の放送電波で S メータがフルになりました。
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FM で [STEREO] 表示が出ない
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MPX の VCO 調整がズレたことが原因です。
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VCO 調整用 [VR5] を再調整して直りました。
[STEREO] 表示が出て音にステレオ感が出ました。
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AC 電源プラグを抜くと一瞬でプリセットが消える
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原因はプリセットメモリのバックアップ用電解コンデンサの故障です。
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C154 [2200uF/6.3V 85℃] を [2200uF/6.3V 105℃] に交換して直りました。
(右の写真)
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105℃クラス品に交換したので、信頼性も上がりました。
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一晩 AC プラグを抜いたままにしてから電源 ON してプリセットが消えないことを確認しました。
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KT-880F は AC プラグを壁コンセントにさしたまま使うのが前提の設計です。
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[POWER] スイッチを OFF にしてもプリセットメモリには電源供給しています。
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AC プラグを抜いて完全に電源遮断した場合、プリセットメモリバックアップ時間は3日間がスペックです。
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端子類に白いサビが出ている
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[POWER] スイッチの動きが悪い
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スイッチトップを外して、スイッチ取付枠とスイッチトップを清掃してマシになりました。
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ハンダクラック対策
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リアパネルの端子のリードと基板のハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
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FM フロントエンドのコイルのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように正常でした
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 CN1-2pin |
+5.6V |
+5.61V |
〇 |
コントローラ |
電源基板 CN1-3pin |
+28V |
+28.7V |
〇 |
VT 電源 |
電源基板 CN1-5pin |
+14V |
+14.1V |
〇 |
チューナ、OP amp. |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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再調整で FM の感度とステレオセパレーションが大きく上がりました。
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以下のように優れた性能に回復しました。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
68 |
62 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.017 |
% |
stereo |
0.017 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-68 |
-78 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
+0.06 |
dB |
REC CAL |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.2 |
dB |
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AM は [純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、手持ちのループアンテナで調整しました。
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良好な感度になり、遠方の放送局もキャッチできました。
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ループアンテナが変わると RF 調整がズレるので、修理依頼者のループアンテナでは最高感度が出ないと思います。
使ってみました
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修理後記
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到着した時は性能的にボロボロ状態でしたが、ほぼ新品時の性能に復活させることができてよかったです。
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再調整後はステレオセパレーションが上がったので音質も劇的に良くなりました。
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デザイン
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筐体の高さが低いのでスリム感があります。
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プリセットメモリは FM/AM ランダムに16局分あり十分です。
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FM アンテナ入力に F 端子があって便利です。
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受信性能&音質
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FM の感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良いです。
FM フロントエンドの性能が余程良いのでしょう。
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FM の音質は非常に良いです。
歪感が少なく、輪郭がハッキリで、スッキリした音の出かたです。
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KT-880F は KT-1010F の下位機種ですが、兄貴に負けない性能があります。
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AM の感度は良く音もマアマアです。
このチューナで AM を聴く人はほとんどいないと思われ、オマケみたいなものです。