KENWOOD KT-1100D (3号機) が到着
2022年12月22日、岐阜市の Y さんより
KENWOOD KT-1100D
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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感度、音圧が低いのと低域がちょっと薄い感じがします。
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外観
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製造シリアル番号は [71100219] です。
電源コードの製造マーキングより、本機は1987年製とわかりました。
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SONY 製の [AM ループアンテナ] が添付されていました。
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このアンテナで使えるよう AM を調整してほしいとのこと。
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私からみても、このアンテナは大型で結構感度が良いのでお奨めです。
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汚れはありますが、[フロントパネル] [リアパネル] [天板] [底板] は綺麗な状態です。
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リアパネルの [AM ANTENNA] 端子にサビがあります。
これ以外の端子に輝きが残っており良好です。
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電源 ON して動作チェック
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電源は問題なく入り、操作ボタンなどの動作は問題なさそうです。
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FL 表示器の輝度は弱いですが、なんとか使える程度には見えます。
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[DISTANCE] [STEREO] 表示など、あちこちに痩せがあります。
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右の写真のように、周波数表示の4桁目に不要な [0] か [5] のような小さい表示が薄っすらと出ています。
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FM はちゃんと受信でき、[STEREO] 表示も点灯します。
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AUTO TUNING でも正しい放送周波数で停止します。
周波数ズレはないようです。
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時報の音に歪を感じます。
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AM は添付の SONY 製ループアンテナで受信できましたが、やや感度が低い感じです。
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全体的に特に大きな問題は無さそうです。
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カバーを開けてチェック
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基板は綺麗で、目視でわかる部品劣化はないようです。
リペア
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FL 表示器の輝度が弱く、あちこちに痩せがある
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FL 表示器周りの電圧チェックをしましたが、正常でした。
よって、FL 表示器の劣化が原因です。
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これを修理するには FL 表示器交換が必要ですが、入手不可です。
なんとか使えるのでガマンですね。
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どうしても直したいなら、[KT-1100D] [KT-2020] [KT-3030] のドナーを探して、FL 表示器を移植するしかありません。
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周波数表示の4桁目に不要な [0] か [5] のような小さい表示が薄っすらと出ている
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ここは輸出機の KT-1100D で [0] か [5] を表示させるために使います。
日本バンドでは必要ありません。
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原因は FL 表示器の劣化で、[FL1-45pin] に誘起電圧が発生しているのです。
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対策として、[FL1-45pin]〜[GND] 間に 2.2kΩ の抵抗を入れてインピーダンスを下げました。
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日本バンドの [FL1-45pin] は回路上はオープンになっています。
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[GND] に直接接続してもよいのですが、不測のことを考えて抵抗を入れました。
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これで4桁目は表示されなくなりました。
痩せた表示は直せないが、湧いた表示は消すことができる。
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音圧が低い (修理依頼者のコメント)
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これは、おそらく他のチューナと比べてオーディオ出力レベルが低いということだろうと思います。
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KT-1100D は FM 1kHz mono 100% 変調でオーディオ出力が 0.6V になるように設計されています。
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この条件でレベル測定してみると、L ch.=0.715V / R ch.=0.720V で、正常範囲でした。
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よって、問題ありません。
チューナのオーディオ出力レベルは機種によって多少変わります。
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低域が薄い (修理依頼者のコメント)
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これは各人の感覚によるので、何ともわかりません。
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再調整にて各特性を計測して異常なところが無かったので、問題ないと思います。
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感度が低い (修理依頼者のコメント)
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主に FM フロントエンドの調整がズレていました。
再調整にて感度アップしました。
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時報の音に歪を感じる
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PLL 検波で大きく調整ズレしていました。
再調整にて歪率が大きく改善し、直りました。
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リアパネルの端子類のハンダクラック予防対策
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リアパネルにある [オーディオ RCA 端子] のリードは基板にハンダ付けされているため、常にストレスが掛かっています。
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このリードは経年変化でハンダクラックしやすいのです。
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リードに補修ハンダ付けしました。
これから先数十年は大丈夫になったと思います。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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以下のように良好でした。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
Q40-E |
+15V |
+14.9V |
+15.3V |
〇 |
Q42-E |
-14V |
-13.5V |
-13.0V |
〇 |
IC14-OUT |
+5V |
+5.6V |
+5.64 |
〇 |
Q46-E |
+28V |
+28V |
+28.6V |
〇 |
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調整結果
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KT-1100D (1号機)
に記載の手順書で調整しました。
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FM 同調点でズレがありましたが、再調整で正常値にしました。
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FM フロントエンドでズレがあり、再調整で 10dB (3.2倍) 感度が上がりました。
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PLL 検波で大きなズレがあり、再調整で高調波歪率が大きく改善しました。
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再調整前のステレオセパレーションは 17dB 程度でしたが、再調整で下の優秀な数値に回復しました。
項目 |
FM IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
50 |
50 |
dB |
NARROW |
48 |
46 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.006 |
% |
stereo |
0.01 |
% |
NARROW |
mono |
0.008 |
% |
stereo |
0.02 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-67 |
-61 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.06 |
dB |
FM REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-7.6 |
-7.6 |
dB |
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AM は修理依頼者ご指定の SONY 製 AM ループアンテナで最高感度になるよう調整しました。
使ってみました
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感度が良く、混変調妨害にも強く優秀です。
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性能は良いのに FL 表示器が劣化していてイマイチなのが残念です。
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FM の音質はシャッキとした高音域が特長
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ハッとするような素晴らしくクリアな音
です。
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ソースの持つ質感や雰囲気をうまく表現します。
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AM の音質も良い
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[AM IF BAND] ボリュームにより、選択度を無段階に調整できるので、結果的に音質も調節できます。
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電波の強い放送局では [WIDE] にすれば高域がかなり出るようになります。